デザインの「暴力性」を手放そう。「マイミー」が田んぼで実践する、未来の在り方を探るコミュニティ
後継者不足や需給混乱など、さまざまな問題を抱える日本の米農業。その解決に向けた一つの実験として、コミュニティで田んぼを育てるプロジェクト「マイミー RICE COMMONS」が辻堂ではじまっています。プロジェクトを推進する農家のヒカルさんとデザイン・フューチャリストのケンタさんを中心に、コミュニティのあり方やそこでのルールをどうデザインしているのかについて、座談会のような形でお話を聞きました。

石井 光 | ちっちゃい辻堂 大家・株式会社 五兵衛 代表取締役
1990年神奈川県藤沢市生まれ。東京農工大学農学部卒業、同大学院中退。13代目地主(半農半大家)。二児の父。小さな村のような賃貸住宅「ちっちゃい辻堂」、大家。コミュニティで行っている900坪の田んぼプロジェクト「マイミーRICE COMMONS」主宰。
近藤 謙汰1995年米デンバー生まれ、NY育ち。ブラウン大学機械工学部卒業。SharkNinjaで日本向け製品開発担当。IDEO Tokyoを経て2024年JITABATAスタジオ設立。現在独立デザイナー・フューチャリストとして活動。「マイミー RICE COMMONS」コンセプトデザイン担当。
※座談会のオーディエンスとして、山口ユリコさん、ナオさん、ツルさんも参加してくださいました。
コミュニティで田んぼを育む「マイミー RICE COMMONS」
── まずはじめに皆さんのバックグラウンドと、この「マイミー RICE COMMONS(以下、マイミー)」にどう辿りついたのかを教えてください。
石井光(以下、ヒカル):僕は13代目の地主で、半分農家・半分大家として暮らしています。「ちっちゃい辻堂」という住宅の大家をしていて、ケンタさんと彼の妻のユリコさんは、そこに住む住人でもあります。少し前まで、茅ヶ崎で6年半ほどコミュニティ農園の代表も務めていました。
田んぼは本来、そこで協働することでお隣さんと会話が生まれるなど、人と人、そして人と自然とがつながる場でした。しかし、関わる人も減り、代わりに機械化が進み、今は高齢の方が独りでトラクターを走らせるような風景になってしまった。どうしたら本来のゆたかな姿を取り戻せるかと考え、「マイミー」を立ち上げました。
近藤 謙汰(以下、ケンタ):僕はデザインコンサルティング会社のIDEOに5年ほど勤め、機械工学とデザインを掛け合わせて新しいサービスや商品をつくる仕事をしてきました。
転機となったのは、数年前に携わった「未来の寿司」というプロジェクトです。お寿司屋さんや田んぼの後継者不足のリアルを知り、自分たちが危機的な状況にあることを痛感したんです。どうやって社会活動につなげようかと考えるなかで、辻堂に引っ越し、ヒカルさんに出会ったことで、真に田んぼのためになる活動ができると感じて「マイミー」に関わるようになりました。

── 「マイミー」は、どのような取り組みなのでしょうか。
ケンタ:「マイミー」は、900坪ほどの田んぼをコミュニティのメンバーで共有して育てているプロジェクトです。中学生から年配の方まで多様なメンバーが100名近く参加しており、田起こしから田植え、除草、収穫にいたるまで手分けして行っています。
山口ユリコ:一般的な田んぼは「農家がお米をつくる場所」ですが、「マイミー」は「お金じゃない豊かさをみんなで育む田んぼ」というビジョンを掲げています。お米は貨幣よりも古くから価値の交換に用いられてきたものであり、田んぼは単なる生産拠点ではなく生態系そのもの、そして人が集まるサードプレイスでもありました。その「お金では測れない価値」を、もう一度みんなで育んでいこうという試みです。

社会問題を見て見ぬふりをしない。自ら行動して得た「実感」
── 「未来の寿司プロジェクト」を経て、田んぼの後継者不足などの社会問題に対して、どのような思いを抱きましたか?
ケンタ:見て見ぬふりをする社会への危機意識を持ちました。デザイナーやコンサルタントをしていると、お米の価格が上がっても、「しょうがないインフレ」と思い日々を過ごしてしまいます。でも、それは問題を人任せにしているだけ。真に社会問題に向き合っているとはいえない、と感じたんです。田んぼが大事である以上に、問題が目の前にあるのに見て見ぬふりをしていることに違和感を感じました。
ただ、ローカルプロジェクトはすぐにできるものではありません。地域との関係性、ご縁、知り合いのツテなどがまず必要です。その点で、地域とつながっているヒカルさんとの出会いには大きな意味がありました。
ヒカル:実は、農家をはじめるには資格が必要です。他の農家の元で1年研修が必要だったり、行政の審査会で認められないと田んぼを借りられなかったりと、地域ごとに条件もあります。その点、地域とあらかじめ関係性を持てていたのは良かったですね。
── IDEOでもさまざまなクライアントの課題に向き合い、アウトプットをつくってきたと思います。それらとは、何か違いがありましたか?
ケンタ:IDEOの仕事では、自分がアウトプットしたものが与えた影響、与えたインパクトが、自分自身に返ってくる感覚はあまりありませんでした。自分の労働はGDPや企業の利益のためであり、その活動が自分自身とは切り離されているように感じていました。
しかし田んぼは、自分が今やっていることが、次の過程にダイレクトに跳ね返ってきます。手を抜けばすぐに草に覆われるし、乾いたままカットするはずのわらを濡らしてしまえばうまくカットできない……すべてがつながっているのがおもしろいです。
現在のデジタルデザインは、簡単で効率がよく、摩擦のない体験(Frictionless Experience)をつくることにフォーカスしていますよね。田んぼ作業では、むしろ摩擦を探して対峙しなければいけません。その摩擦抵抗があることによって、自分の行動一つひとつに注意を向けることができるのかなと。

── そういった違いがあるなかでも、IDEOで培ってきたスキルやマインドセットは活きていますか?
ケンタ:IDEOで学んだ「7つの価値」はフル活用しています。たとえば議論する前に、まず手を動かしてプロトタイプをつくってみる(Talk less, Do More)。「マイミー」でも、看板や道具が必要ならその辺の端材でサッとつくったりします。そのときも独りでやるのではなく、みんなと一緒にコラボレーション(Collaborate)することを大切にしています。

ケンタ:あとは、「曖昧さや不確実さを受け入れる(Embrace Ambiguity)」姿勢です。現代社会では、予定を管理し、いつ何をするかを細かく決めて取り組むのが一般的ですが、自然を相手にする場合はそうもいきません。環境や天気との対話と、そこにいる人との関係性などから決まっていくものです。
ルールがないからこそ、「生きている」を感じられる場になる
── 100名近くが参加し、田んぼ本来のサードプレイス的なあり方を目指しているということで、場づくりや関係性のデザインとしてルールなどは定めているのでしょうか?
ケンタ:ルールは特に定めていません。敢えてというか、逆にルールや制約がある方が適切ではないのではないかなと。ルールを設けた瞬間に、それは「この状況に対しては、こう行動しなさい」と縛ることになり、人間をマシンに変えてしまうからです。
僕は、「マイミー」ではなるべく有機的につながりたいと考えています。ヒカルさんとはこう、ツルさんとはこう、といった関係性や接し方をデザインするのではなく、コミュニティメンバー同士がありのままで繋がれる状況や条件をデザインする、という考え方です。人と人とのつながりの線をデザインするのではなく、その線が生まれる土壌をつくるようなイメージでしょうか。
ヒカル:野菜をつくるのではなく土をつくる、みたいな感覚ですよね。いい環境がつくれていると、いい野菜ができるし、病気や害虫にも立ち向かうことができる。その土づくりに手をかけているわけです。
目的はお米をつくって美味しく食べることであり、独りではできないから手段としてコミュニティが生まれる。これは、祭りを祝うことを目的としつつ、独りで御神輿をかつげないから手段としてコミュニティが生まれることと近いかもしれません。それによってゆるやかにコミュニティがつながることができる。環境設定によって、創発が起こる可能性を高める、みたいな感覚です。
ただ、創発はコントロールすることはできません。起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。
── ルールのない環境は、実際いかがですか?
ツル:そもそも田んぼでは、思い通りにいかないことがたくさんあります。常に目の前で起きている生の状況があり、必然的にやらなければいけないことに対処する、その繰り返しです。「この作業終わらないな……」という大変さも、そこに突然すごい助っ人が現れるようなミラクルが起きるドラマティックさもあります。
パソコンの中だけで仕事をしていると、決められたルールの中で動くことを良しとしてしまうけど、本来「生きていく」って計画通りにいかないことばかりです。「マイミー」がそうであるように、田んぼは曖昧さ、摩擦、計画通りに行かなさ、それらがすべてあるからこそ、「これが生きていくってことなんだ」と実感できるのが良いですね。


デザインに潜む暴力性。土壌を育むように環境を整えよう
── そんな「マイミー」のあり方を踏まえたときに、デザインとは何をすることなのでしょうか?そこでのデザイナーは、何をつくる人なのかなと。
ケンタ:最近考えているのが、デザインってもしかして暴力的な行動なのではないか、という可能性です。デザインとは、ある種の誘導です。そこには優しい誘導も、暴力的な誘導もあります。たとえば、コップの持ち手にも「こう持って、こうコップを動かす」というさりげない誘導があるし、デジタルの世界では、最近よくSNSで見る「ショートビデオ」のように、中毒性を生む暴力的な誘導もあります。それは、倫理的に不愉快なのではないかなと。
人間には本来持っている本能や主観があるにも関わらず、デザイナーという立ち位置の人間がつくったものを、ビジネスは「良いものだからこう使うように」と押し付けてしまっている。効率的かもしれませんが、これでは人間の主体性を奪っているのではないでしょうか。
実は、この違和感はずっと以前から持っていました。
僕がこれからやっていきたいデザインは、そもそもデザインという言葉自体が適切ではないのかもしれません。どちらかと言うと、引き出すことなのかな。その人が持っている能動性や行動する力をどう引き出すか。それは形をつくるというより、環境を整えることであり、「土づくり」に行き着くのだと思います。
── ルールのない状態で、今後規模が大きくなるにつれて分断や混乱が生まれる不安はありませんか?
ヒカル:もう少し仕組みや体制は必要になるでしょうね。ただ、コミュニティには適正規模があるから、規模が大きくなれば分裂していくのが自然の節理です。
ケンタ:あとは仕組みをつくるにしても、「期待」をつくってしまうと、それを目当てに参加する人が増えてしまうという問題もありますね。
ヒカル:現代は等価交換が社会の根底にあるので、何かを得られるという期待を持つ人も多いでしょうね。でも、投げかけた価値が時間差で戻ってきたり、別の形になって戻ってきたりと、長期的に見て豊かさが巡り巡ってくる、みたいなこともあるはずです。
サブスクのような形もありえますが、そうすると提供者と受益者という分断が生じ、結局は社会一般に溢れるサービスと同じものになってしまう。「マイミー」はそうならないように、田んぼによって提供される価値を受け身で待つのではなく、主体的に楽しみにいくマインドでいてもらえるような関係性のはじまり方に気を付けています。
ケンタ:ちなみに、ツルさんはいつもお茶を持ってきてくれるので、今日はどんなお茶を持って来てくれるかと楽しみにしていたんですけど、持ってきていなかった。これはまさに、僕が期待しちゃったのがだめなんです(笑)。こういう期待も、手放していくべきですね。
やはり、すべてを予測できる社会には気味の悪さを感じます。お金を払えば思った通りのサービスの提供を受けられるのが現代の考え方ですが、よくわからないものが返ってきたり、返ってこなかったりすることを、味わえなくなってしまいました。
ヒカル:人間中心の社会ではコントロールできる部分が多いので、予測が成り立つように錯覚してしまいますが、自然相手では予測できませんからね。お米がきちんと実ることは、実は奇跡なんです。


手を動かすことでしか、未来はつくれない
── 食料危機が現実的なものになってきているなかで、「マイミー」のような取り組みにはどのような意味があると考えていますか?
ヒカル:少しでも田んぼ作業に触れたことのある人がどれくらいいるかが、今後の社会の存続を左右すると考えています。知識や経験がまったくない人たちだけでは、本当に食料危機に陥ったら生き延びるのは難しい。でも少しでも田んぼ作業をやったことのある人がいれば、その人の周りに人が集まり、情報交換したり手探りで取り組みながら、コミュニティが生まれていくのではないでしょうか。
ケンタ:ただし、そのために「マイミー」を大きな組織にしたり、別組織を増やせばいいわけではないと思っています。この活動が他の地域にも飛び火して、そこで何かしら別の活動が生まれるきっかけになればいいですね。「マイミー」だけが正解ではないし、これはひとつの社会実験なので、きっとその地域ごとのあり方が生まれてくるはずです。
ヒカル:最終的には「楽しい」と思えることが大切だと思います。気候変動とか、問題解決とかを考えると、どうしても楽しさが薄れていってしまいますが、やっぱり土台となるのは「楽しい」そして「美味しい」です。それを「マイミー」では、実践していきたいですね。
── 最後に、読者の方に伝えたいことはありますか?
ケンタ:未来を描く人に伝えたいのは、「手を動かしてデザインしよう」ということです。ビジョンなどをデザインする企業や人はたくさんいますが、言っていることに対して実際に行動できている人は少ないと思います。どれだけ立派なビジョンを描いても、システムのフレームワークを駆使しても、行動しない限りは何も変わりません。
食料危機などの問題はすぐそこまで迫ってきており、考えるだけでは止められません。美しく描いた未来に満足するのではなく、まずは自分自身の手を動かして未来をデザインしようと伝えたいです。
取材協力 「マイミー RICE COMMONS」



