Twitchのデザイナーが語る次世代のためのテクノロジーとデザイン

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Twitching Up Technology For Future Generations

Derek Fidler氏はオランダの首都アムステルダムを拠点とするプロダクトマネジャーであり、デザイナーです。今記事では、彼のゲームやテクノロジーに関する経験、そして未来についての予想と不安、希望についてお聞きしました。

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Derekは現在サンフランシスコにある、ゲーム、eスポーツ、音楽を楽しむ数百万人のユーザーのコミュニティであるTwitchで働いています。また、ShelterTechというホームレスの支援を目的としたNPOの活動にも参加しています。

私たちはこの記事を通して、彼のデザインに関する専門知識と好奇心旺盛でビジュアルだけでなく現実的で哲学的な視点から、世界を捉えることができるようになります。

Derekは、Design Matters 20のテーマである「Next Gen design」のティーザー広告を作りました。彼は、デザインとテクノロジーがどんな未来へ私たちを連れていってくれるのか、若い世代にどのような影響を与えるのか、さらにはゲーム業界にはどのような変化がおきるのかについて考察しています。

──まず始めに、Twitchでのあなたの仕事について教えてください

Twitchで働き始めて1年になります。私のチームは、これまでTwitchがマーケットシェアを獲得できていなかった市場に向けた、モバイル専用の体験をデザインしています。私の仕事は、ラテンアメリカを中心に中東や東南アジアのマーケットに向けたモバイル専用の体験をデザインすることです。

Derek Fidler

──Twitchはプロダクトとデザインの橋渡しをするような会社ですが、どのようなやり方でその橋渡しをしているのですか?

Twitchで素晴らしいことのひとつは、デザイナーがプロダクトについての発言権をもっているということです。これは、プロダクトとデザインが良好なバランスを築いていると言えます。新しい機能を検討するときには、常にデザイナーとプロダクトマネジャーの間で活発な議論が交わされますが、デザイナーがリードすることがよくあります。

Twitchはビデオゲームを愛する人たちのグローバルなコミュニティです。みんながまったく同じゲームをプレイしているわけではありませんが、同じ文化、同じ慣習、同じキャラクターの囲まれて育っているようなものなのです。みなさんが幼少時代から知っているTV番組やキャラクターに対して抱くような感情を、ゲーマーもゲームに対して抱いているのです。

──将来、デザインは私たちにどんなものを見せてくれるのでしょうか?

先進国では、モバイルしか使わない人がどんどん増えています。本人が望んでいるのか、必要に迫られているのかはともかくとして、これこそが次世代のデザインだと思っています。アメリカでは、低所得者層の人々にスマートフォンを支給し、通信料金を無料にするというプログラムが行われています。デバイスをもち、インターネットへアクセスできるということは最低限の権利になのです。

さまざまなデバイスがありますが、その中でもモバイル用の体験設計とデザインは大きく遅れています。むかしは、Webサイトやデスクトップの体験デザインが主流だったため、長い時間をかけて人々にこれらのサービスやデバイスを標準とするマインドセットが染み付きました。とくにゲームにおいては、高解像度と大きなスクリーンがゲーム体験のスタンダードとされています。中には、4Kのデバイスを持っている人もいるでしょう。そのため、私たちは携帯電話だけを使ってゲームをしたり、インターネットを使ったりしている人たちの体験についてはそれほど考えてこなかったのです。

特にアメリカとヨーロッパでは、大きなスクリーンと高解像度を前提として考えられています。一方で、スクリーンのサイズと通信速度が限られたモバイルのマーケットは急成長をしているため、私たちはをモバイル用のデザインを考え始める必要があります。

Image Credit: Razer

──テクノロジーとデザインの将来的な方向性について、懸念していることはありますか?

Webサイトを前提に作られてモバイル用に対応されたサービスのほとんどが、モバイルユーザーにとってはあまり良いものではないということはお気づきだと思います。新型コロナウイルスをきっかけに、この問題に多くの注目が集まりました。

Shelter Techで私たちが見たのは、教師の端末と接続することができず、宿題もテキストを読むこともできなかった何千人もの学生たちの姿でした。学生はスマートフォンしか持っておらず、さらにそれらの体験がモバイル専用にデザインされていなかったことが問題でした。ラップトップやデスクトップからテストを受けることはできますが、スマートフォンでは受けられません。こうしたデザインの問題は存在しますが、学生たちが教室に集まれない状態になるまで明るみに出ていなかったのです。

──テクノロジーの使い方という点で、むかしの経済と現在の経済の相違点に興味をお持ちだということですが、詳しく教えていただけますか?

ゲーマーは世界中にいますが、ゲーム体験は伝統的に、すでに成熟したマーケットに合わせて極めて限定的に捉えられていました。PCや家庭用ゲーム機を使うゲーマーがハードコアなゲーマーで、モバイルを使うのはカジュアルなゲーマーです。しかし、ここ数年、東南アジア、ラテンアメリカ、中東そしてアフリカでは目覚ましい変化が起こっています。驚くべきスピードでモバイルゲームのユーザーが増大しているのです。

Twitchはこの変化に対応すべく新しい試みをしています。私たちは既存の顧客のうちもっとも大きなセグメントである自宅でPCを使って視聴している人にフォーカスしています。従来新しい機能を作ると、まずWebに機能をリリースするために時間をかけ、モバイルの開発は後回しとなります。しかし、いまモバイルの分野は急速に成長しています。だからこそ、私のチームは合理的であると判断したら、従来の順番を逆にし、まずモバイルからリリースしようとしているのです。

Twitchの動画

使えるリソースと時間は限られています。私たちの主な顧客はデスクトップを使っているので、モバイルに注力することはビジネス的には合理的ではないことが多いです。しかし、その考え方に囚われていると、将来の顧客になり得る他のユーザーを完全に捉え損ねてしまうリスクがあるのです。これが私たちが見据えていることであり、いま取り組もうとしていることです。

──あなたは同時に非営利のボランティア活動も行っていらっしゃいますが、デザインの分野への関心からですか? あなたを動かす動機はなんなのでしょうか?

私は早い段階から、起業家精神を持っていたと思います。どうすればプロダクトをうまく作り上げられるか、ユーザーに価値を提供し顧客満足度を高めつつ、ビジネスの目標を達成するにはどうしたら良いかということに関心を持っています。また、ビジュアルデザインにはあまり興味がなく、デザインをできるだけ最小化しつつユーザーに価値を届ける方法を模索することにより興味があります。

デベロッパーやデザインをあまり必要としないが、ユーザー体験には劇的な影響を与えるようなプロダクトの機能を見つけ出したいのです。たとえば、一般的にはデザインによるソリューションとは思われないかもしれませんが、デバイスになにかを保存するという機能です。モバイル上になにかを保存し誰かと共有できるようにするということは、プロダクトにとって間違いなく良いことです。

TikTokを考えてみてください。TikTokを使えばユーザーはユニークで面白いコンテンツを作れますが、その動画にはウォーターマークが入るので、いまでは至る所でTikTok動画を目にします。私が初めてTwitchを知ったのはYouTubeでしたが、私たちにはまだYouTubeのようなタップするだけでコンテンツをアップすることができるプラットフォームはありません。

私をボランティアに参加する動機は、企業が通常デザインのターゲットとしていない人たちに対してどんなサービスを提供できるのだろうかという疑問です。サンフランシスコにいるときに、Darcel Jacson氏と出会う機会に恵まれました。彼はホームレスになった経験があり、テクノロジーによってホームレスのコミュニティを改善するアイデアを持っていました。その後、私の専門であるプロダクトデザインを生かして、Shelter Techで彼と一緒に働く機会を得たのです。おかげで、普通に仕事をしていたら出会わなかったであろう課題に出会い、それを解決するためのスキルを磨くことができています。

ShelterTechのプラットフォーム

テクノロジーの分野で、これまで注目されて来なかった人たちのために体験をデザインすることは、私の仕事における経験にとって、とても有意義なものとなっています。サンフランシスコだけでも、毎年3,000人の学生がホームレスを経験しているか、ホームレスになる危険に晒されています。その多くはゲーマーであったりゲームに興味を持っていたりしますが、彼らの体験全体はモバイルでアクセスできるものによって構成されています。まさに、デジタル的な公平性のためのデザインとTwitchの顧客のためのデザインと重なる部分があります。また、このことに関しては新興のマーケットだけでなくアメリカやヨーロッパでも考慮すべきことです。

先進国市場では、低所得者層がモバイルデバイスを使ってインターネットやゲームをする傾向にありますが、東南アジアとラテンアメリカに目を向けると、必ずしも社会経済学的な論点ではありません。人々が幼少期から慣れ親しんでいるゲームは、彼らにとってゲームをするようになったきっかけそのものなのです。欧米や先進国市場では、子どもの頃に遊んだファミコンなどの家庭用ゲーム機にノスタルジーを覚えるでしょう。同じように、東南アジアやラテンアメリカの人々はモバイルゲームに対してノスタルジーを覚えるのです。

ノスタルジーが、私たちのテクノロジーについての考え方と大人になって魅力を感じるテクノロジーの種類を決定づけるのです。だからこそ、画一的なソリューションなど存在しないのです。

──テック業界で働きたいと思っている若者たちになにかアドバイスはありますか? また、彼らとあなたとの違いはどんなところでしょうか?

選択肢を広げ、なにかひとつにこだわり過ぎないようにしてください。自分が興味を持っているもの、そしてそれがプロダクト全体のどこにあてはまるのかを考えましょう。非常に曖昧なものではありますが、プロダクトの全体を考え、顧客体験の全体を考えると、改善すべきポイントをよりオープンなマインドで見つけることができます。必ずしももっとも大きなインパクトを与えられるのが、デザインによるソリューションとは限らないのです。

Written by Ella Braimer Jones (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

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Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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