ランダムなビジュアルとテキストからなるデジタル空間World2が生み出すインスピレーションの循環
本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Thomas Hedger Explores The Relationship Between Visuals And Language in World2
World2は、ユーザーの共同作業を通して新たな物語を生み出すために作られたデジタル空間です。ユーザーはサイトに画像とテキストを投稿することで共同作業者となります。そしてその共同作業者たちの解釈が、画像により深い意味を与え、一風変わった物語を作り出すのです。
Thomas Hedger氏は、ロンドンを拠点として活動する受賞歴のあるアーティストです。彼の作品は私たちの慌ただしい日常がもつエネルギーと、私たちが忙しさを言い訳にして見落としてしまうような小さな出来事を力強く捉えています。大胆な線と幾何学的な形、ベクターアート、ポップな構図、そして鮮やかな色とグラデーションの組み合わせ。これらが彼の作品の特徴です。彼は主に印刷物とデジタル作品を扱いますが、その形式にとらわれずに、3Dインスタレーションや彫刻にも挑戦しています。

彼のプロジェクトのひとつであるWorld2は画像とテキストを結びつけるためのデジタル空間であり、画像とテキストの相互作用を通して、今までにない物語を作ることを目的としています。
このWebサイトでユーザーは、あらかじめ設定されたデータセットの中からランダムに選ばれた画像とテキストを組み合わせて、新しくカードを作ることができます。こうして作られたカード、つまり新しい物語をギャラリーに展示することができ、それがまたユニークで面白い物語を作るための新しい素材となって紡がれるのです。
またWorld2では、ユーザーが画像の組み合わせにテキストを書きつけることもできます。書き足すテキストは2つの画像から読み取れる説明や感想、詩などなんでも構いません。これらのテキストがデータセットに統合され、それを使ってまた別のユーザーが新しくカードを作っていくのです。また、Webサイト上にあるすべてのカードはダウンロード可能です。
今記事では、World2の制作過程や、このデジタル空間を構築する上で直面した課題、そしてThomasの素晴らしい作品を生み出すインスピレーションについて、インタビューしてみました。

──このアイデアはどのようにして生まれたのですか? また、World2という名称の由来はなんですか?
私はWorld2を思考と共同作業のためのオープンな空間にしたいと考えています。画像とテキストの間の繋がり(会話)を作る中で、私は、部分的にせよ画像がおのずと物語を作る力を持っていることに興味があります。World2の考え方は、Karl Popper氏の3世界(World)理論に基づいています。
この理論では、World1は物質的な世界、World2は精神的なプロセスの世界、World3が客観的な認識による世界と定義されます。この理論を踏まえて、私はユーザーからのフィードバックと、より深い意味と風変わりな物語の投稿により、ユーザーの解釈がわたしの画像に対する意図をどのように想定外な別ものへと変えるのかに注目したのです。画像を作って行く上での会話の重要性と、判断を決定づけるような考え方を共有することの効果、そして画像を言語として使う方法を示したいと思っています。
──このプロジェクトの目的はなんだったのでしょうか?
このWebサイトは、画像と短いテキストをランダムに組み合わせることによって成り立っています。画像はテキストのきっかけであり、意図が明確なものもあればあいまいなものもあります。私はこのように不明瞭なものと明確なものを混在させる方が、白黒をつけるよりもユーザーから刺激的な反応が得られることに気がついたのです。
テキストはすべてユーザーが考えて投稿しています。このサイトでの共同作業に加わるとき、ユーザーはランダムな画像のペアを見せられ、短いテキストを書き加えるように求められます。テキストはとりとめのないものでも説明的なものでも、詳細に書いても、あいまいに書いてもいいです。2枚の画像から読み取れる考えやフレーズや詩など、思いつく短いテキストを書けばいいのです。ユーザーがカードを作ると、これらの画像とテキストがランダムに組み合わされます。もし気に入ったペアがあれば、ギャラリーに保存できます。その結果ギャラリーには、突飛で予想もつかない物語と会話が集まることになるのです。
Webサイトにはいまでも150以上のユニークな画像がありますが、もっと追加しようと思っています。ユーザーとの共同作業であるカードの投稿が多くなればなるほど、私が作品を描く上でのインスピレーションがわいてくるのです。画像からテキスト、画像、そして再びテキストへというサイクルを形成し、この循環を保って、まだWorld2のWebサイトで投稿をしたことがない人にとっても興味を引くような場所にしたいと思っています。

── ユーザーによる作品の中で、お気に入りはありますか?
すべてがお気に入りです! どんなに拙い投稿であっても、ユーザーが時間を割いてこのプロジェクトに参加してリサーチを手伝ってくれたことがありがたいです。あえてひとつ選ぶとすれば、1番最初のリサーチに参加してくれた人たちにはとくにワクワクしましたね。メディアの質、統一性、そしてミームに関するひらめきを与えてくれたからです。これは本当に驚くべき発見があり、私自身、自分を進歩させるために作品との関わり方が変わりました。彼らは好奇心たっぷりに絵の組み合わせに向き合ってくれて、私が思いもしなかったような会話に変化させていったのです。
すべての投稿は物語を絵にうまく結びつけ、説明のつかないような一風変わった画像との繋がりを作っています。画像に付けられたテキストは、文学的、抽象的、政治的、詩的、感情的などバラバラに思えますが、無関係なものはなくすべて関連性があります。それらはこのプロジェクトの未来を照らすような光となるインスピレーションをわたしに与えてくれるのです。



── Webサイトを作るにあたってTwomuch.studioを選んだのはどうしてですか?
Twomuch.studioはデザインと機能のバランスを上手にとることのできる、非常に興味深いデザインスタジオだからです。なにかを一緒にすると決めるのは難しいですが、最終的には彼らと一緒に仕事をしたいと思いました。Twomuch.studioがすでにtwogetherやboook.landといったユーザーとの共同作業を伴うオープンソースのプロジェクトを手がけていたことが決め手です。どちらもユーザーの共同作業や相互作用によってプロジェクトに命を吹き込むような、非常に興味深いプロジェクトでした。
このデジタル空間のプロジェクトを考え始めた時点では、私はWorld2の可能性や限界についてまったくわかっていませんでした。一方でどうすればうまく行くのかはなんとなく理解していました。しかし時には誰かの力を借りる方がよいですし、共同作業がカギを握るようなプロジェクトなのでそれを深く理解しているスタジオと一緒に仕事をするべきだと思ったのです。

── プロジェクトを進める上でどんな困難がありましたか?
幸運なことに、World2は特に困難もなく作りあげることができました。私は自分のリサーチを、実際に一緒に絵を描くような、身体的に影響し合うもっと手触りのあるアプローチにしたいと考えていました。Covid-19とその結果として起きたロックダウン以降、スタジオに行くことも作業場を作ることもできず、身体的な触れ合いは不可能になりました。こうした手段が使えなかったために、身体的に影響し合える可能性を持つリサーチであるこのプロジェクトをデジタル空間で行おうと考え始めたのです。
アイデアを練り直すこと自体は問題なかったのですが、きちんと構想し直したかったので、その時間を使って言語、サイクル、それと製作者であることについてより直接的に考えました。この時間をとれたことはわたしにとって幸運で、アイデアをシンプルな形へと洗練することができたのです。画像をもっと直接的に扱えば、プロジェクトがもっと明確になると思いつきました。物語を語ることに立ち返ることによって、共同作業と言語の重要性に改めて気づき、強調することがより簡単になりました。そうすることで、従来とは違った方法で私の活動を進展させる新たなやり方を見つけることができたのです。
── インスピレーションをどこから、誰から、なにから得ているのですか?
多くのクリエイターと同じように、私はアートを強く愛しています。アートを見るのは好きですし、新たな作品を見つけることも、あるアーティストの過去の作品まで遡って鑑賞することも好きです。個人的には言語と雰囲気からインスピレーションを得ています。私は、もっと没入感があって、決まりごとが少なく、そして会話で私自身(コーディネーター)の特権的な意見に挑むような物語の語り方にしようとしています。色と空白部分の使い方は、雰囲気の調整に重要なものです。
私は自分の作品が、ものや人からではなく、説明できない感情によって情緒を掻き立ててほしいと思います。World2に関して言えば、私はEd Ruscha氏やJohn Baldessari氏、Hamish Fulton氏、Martin Creed氏といったアーティスト達に囲まれていました。製作中のリストは、私が自身の創作プロセスの中で見失いたくないと思っている、作品制作の核に言語をおいていると感じられるアーティストばかりで構成されています。

── ここ最近でなにか試していることはありますか?
全部をお話しはできませんが、World2では、最終的にユーザーの投稿をすべて集めてひとつの具体的な形にし、このリサーチの結論としたいと思っています。
また、まだ自信を持ってお見せできるようなものはできていませんが、自宅でできるエッチングなどの変わった印刷技術をいろいろ試しています。しかし、こうした小さな模索のおかげで、絵を描くことや画像を作ることに対する関心を持ち続けることができているのだと思います。自分の作品を新たな方向に推し進めるものにいつ出会うのかなんて、誰にもわかりません。いまはただ、描き続けるだけです。


Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo



