デザインの未来はアフリカにあり

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。

元記事はこちら:The Future of Design is African

アフリカにデザインができるのか? Guidione Machava氏は、モザンビーク(アフリカ東部に位置する国)の郊外から南アフリカ共和国を経て、Shopifyのフランス支社に入社しました。彼の経歴に対する批判的な見解は、長期間に渡り必要とされてきた多様性と包括性に関する議論をはじめるための要石となります。そしておそらく、私たちがみつけるであろう教訓は、「ヨーロッパの人種差別に対する自己満足」が関係しているでしょう。

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── あなたの経歴やデザインの遍歴、そしてモザンビークや南アフリカ、アメリカ、ヨーロッパなど、これまで住んできた場所について話しましょう。なにか共通点や相違点はありましたか?

発展途上国から来ると、タイムトラベルができます。はじめて南アフリカに旅行したときのことを覚えています。私はすでに成人していて、モザンビークから飛行機でたった1時間の距離でしたが、あらゆる側面で20年か30年の時を駆け抜けたような気分でした……。アメリカを旅したときはもっと大きな差を感じましたね。

理解したことは、アメリカや南アフリカ共和国に住む人々、あるいはヨーロッパの人々が直面している問題は、私がアフリカの地域で知った問題とは別ものであるということでした。彼らの背景や生活様式は完全に別のシナリオです。マズローの欲求5段階説からみると、私たちにはまだ基礎的な欲求が残っているといえました。

文化的、経済的習慣をみれば、これらの違いがもたらす影響を理解することができます。たとえば、Shopifyのような洗練されたソリューションを発展途上国に置いた場合、国民はきっと「これは本当にすごいけど、私たちには必要ない」というでしょう。なぜならそこの国民は、そもそもオンラインを使う余裕がないからです。(費用がかかりすぎるので。)

下から「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」
写真提供:Signium

── アフリカでデザイナーになるのはどのような感覚ですか? 現地のデザインエコシステムについて教えてください。

アフリカにおいてプロのデザイナーであるということは、他の地域と同じだけの価値をもちません。この業界に対する理解が浅いため、アフリカの多くの人々が私のことをまだグラフィックデザイナーだと思っています。多くの企業や人々はなぜこのようなことが起きるのかを理解していませんが、私にはわかっています。それは、デザイナーがその国の成熟度に基づいて評価されるからだと思います。なにがいいたいのかというと、国がテクノロジーに対して準備ができていなければ、どんなに優れた技術だろうと評価されないということです。……少し寂しい気がしますね。

アフリカの人々は私がどんどん出世していくのをみて、より注目するようになったんだと思います。当時の私と同僚たちの違いは、私は将来起こるだろうことがわかっていたので、それに対処するために動いていたことかもしれません。おそらく当時の彼らは、それを理解していなかったでしょうが、いまは違う目で私をみてくれています。

私はモザンビークから南アフリカ共和国まで、かなりの距離を移動したのですが、この頃から彼らは私の仕事をより注意深くみるようになりました。いまはフランスを拠点にしていますが、私はアフリカの人々が私のことをみて、「なるほど、これはありかもしれない」と考えていることがわかります。

しかしアフリカの国はどこも異なる背景があります。たとえばナイジェリア。あの国は単純によくわかりません(笑)。多くの困難に直面している土地ですが、それと同時に経済は成長しています。国民はエネルギーに満ち溢れていて、地球上でもっとも回復力のある人たちなのです。過去に抱えていたすべての問題にかかわらず、ナイジェリアの才能はエコシステムを成長させています。ある意味、南アフリカ共和国はナイジェリアとよく似ていて、現在ナイジェリアが技術の中心地として地位を確立したように、南アフリカ共和国も、テクノロジーバブルに向かっている可能性があると感じます。

写真提供:Oladimeji Odunsi

── また、あなたはWorld Class Designer Schoolを設立しましたね。どこからそのアイデアを得たのですか?

Tim Ferriss氏のポッドキャストをよく聴いていたのですが、そこでは世界的なパフォーマーにインタビューをしていました。テニス選手のMaria Sharapova氏のインタビューで聴いたあるエピソードを覚えています。彼女は、「最高のテニス選手のひとりになりたい」といっていて、史上最高の選手のひとりになるためにしたことを説明してくれました。

そのエピソードを聴いたあと、私は自分が一流のデザイナーになるために必要なものを考えはじめました。もしそれがトレーニングを継続することや規則を守ることであれば、「私にもできる」と思ったのです。発展途上国出身である私たちはそれほど賢くないと世間に思われています。私はその認識を変える手助けをしたかったのです。だから私は、その道に身を投じました。私は勉強しなくてはならないことを全て書き出し、その中で、私がなりたいポジションにいる人たちにインタビューをしようと決めたのです。当時の私には知り合いがいなかったので、「3%ルール」を適用しました。3人の人とはなしをしたくて、合計10通のメールを送ったのです。信じてください、うまくいきました。

その人たちにインタビューを通して、「私が学んだことはとても価値のあることなのだから共有するべきだ」と思うようになりました。最初はインタビューを書き留めていましたが、そのあとポッドキャストに移行しました。時間が経つにつれて、フィードバックが得られるようになりました。しかも好評でした。人々は私のポッドキャストと記事を気に入ってくれて、勉強になったといってくれました。さらに、私のようなデザイナーになるにはどこで学べばいいのかと聞かれるようにもなったのです。学校は高すぎるし、適切な指導もありません。そこで、私は「私が学校を作り、カリキュラムを組めばいいのでは?」と思ったのです。

写真提供:Oladimeji Odunsi

── その学校ではどのような苦労がありますか?

当面の最大の課題は、生徒の次のステップです。私たちが指導すると、彼らは学習を終えて「これで就職する準備ができました。仕事をください」というのです。しかし、そううまくはいきません。

Shopifyに入社して以来、人々は定期的にいまの仕事に到達するためにしたことを尋ねてきます。私は貧困線以下のコミュニティ出身です。私の家族は、1日2米ドルで生活しています。そこから抜け出すことは信じられないほどの飛躍であり、ほとんどの人々はその場所を離れるという発想すらできません。生徒のほとんどが私と似たような境遇で、彼らのことがよくわかります。私は彼らの苦労を知っています。しかしどうすれば橋渡しができるのか、まだ解決できていません。

── ヨーロッパに移住した現在のはなしを聞かせてください。

代償はあったと思います。ヨーロッパで黒人であるということは、私が考えていたよりもずっと困難なことです。通りを歩くと必ず、人々は私が強盗をすると思っている……。その態度はなんだか奇妙です。彼らの私への接し方も少し違います。多くの人種差別を目にし、感じてしまいます。最初は心が折れました。しかし、私が作っている学校のことを思い出し、人々にこういう事態に対して心構えをさせなくてはいけないと思いました。もう誰にも、このような状況に準備をしないまま来てほしくないからです。私は生徒たちに、このような環境に身をおく準備をしたいと思っています。

みんなが黒人で、白人が数人いるという環境で育つことを想像してください。それが私たちにとって普通です。しかし状況が逆転すると大きな変化があり、私たちはそこにいることが普通であるというようには扱われない……。誰かが私に、こんな状況を前もって覚悟させてくれていたらよかったのにと思います。

Shopifyは多様性を第一に考えている会社ですが、私が所属する30人ほどのチームに黒人は、私を含めてたった2人しかいません。そしてこれは必ずしも企業の努力不足というわけではなく、単純に技術業界がまだかなり白人が多く、私たちは代表者が不足しているということです。

── Shopifyは企業内を多様化しようとしているとのことですが、あなたは他の大企業の実情も知っていますよね。それらの取り組みは真の多様性を表していて、ヒエラルキー全体において白人以外の人々に対し、本当に解放されていると思いますか? それとも、多様性は下層部のみで起きていることで、管理職はまだ白人によって独占されていると思いますか?

偏見かもしれませんが、Shopifyは多様性を導入しようとしている企業の中ではもっとも優れた企業のひとつだと思います。しかし私にとって、これは「鶏が先か、卵が先か」というような状況です。多様性に取り組んでいる企業はたくさんありますが、役割に相応しい能力をもった人材が不足しているようです。黒人であるというだけでは雇うことができず、能力のある人材を求めています。黒人の有能な人を雇おうとしているので、つまり、私たちは黒人の実力を確かなものにしなくてはいけません。資料のないゼロからのスタートは大変でしょう。しかし、状況を変えたいのであれば、私たちはできることをしなくてはならないのです。

とても複雑なことであり、その点で私は大企業を責めるつもりはありません。これはすべての人に責任のある問題であり、あらゆる人が自分の役割を果たさなくてはならないのです。

「現実は、現実そのものよりも、認識により影響を受けているということを悟りました。このことに気がついたとたんに、心配になりました。なぜなら、私たちが大陸にいたときに作り上げた自分のイメージは、私たちを助けてはくれないのですから」

GUIDONE MACHAVA

── あなたがおこなっている仕事(Shopifyだけでなく、学校やカンファレンスなども)は、アフリカのデザインブランドを高めようとしているように感じます。このような声をもっと多くの人に聞いてもらいたい、少なくとも世の中に少しでも知ってもらいたいと考えていらっしゃると思います。アフリカのデザインの状況を、どのように外部に伝えるのがよいのでしょうか?

私は、現実とは現実そのものよりも認識の方が関係していると考えるようになりました。これを学んですぐ、大陸にいるときに作り上げた自分のイメージは私たちを助けてはくれないので、不安になったのです。私たちの中に世界でもっとも優秀な人がいるかもしれませんが、よいブランドはありません。私たちはまさにこのことに取り組む必要がありますが、残念ながら、ひとりでできることではありません。たくさんの人が、大陸のよりよいイメージを提供するために動く必要があります。

私にはヨーロッパ人とアメリカ人の友人が数人います。時折彼らのはなしを聞いていると、「私は世界中を旅してきた。オーストラリアやヨーロッパ、南アメリカにもいったよ」というようなことを言います。私は不思議に思うのですが、彼らは大陸が丸々ひとつ欠けていることに気がついているのでしょうか? 誰もアフリカに行きたがらないので、まるで私たちが存在しないように感じられるかもしれません。またもし行ったとしても、彼らは普段とまったく違うこと、危険なことやエキゾチックななにかを試してみたいと思っているという印象があり、私はそれはその場所に行くよい理由ではないと思うのです。

Guidione Machava氏

この大陸が、旅行先としてよい自己プロモートをできているとは思いません。私はヨーロッパに短期間滞在していましたが、そこに住む人たちのことを理解しています。どうして自発的に自分を危険にさらすでしょうか? それが私たちアフリカ人が現在もっているブランドであり、私たちが取り組まなくてはいけないことです。

世界的な才能を生み出すことよりも、私たちは自己プロモートをもっとうまくしなくてはいけません。なぜなら結局のところは、ストーリーテリングと自分について語る能力が売上につながるのですから。私はそのことを他の国から学んできて、『アフリカにデザインができるのか?』というタイトルの記事を書いています。研究を通して、私は他国がどのように取り組んでいるのかを比較しました。

たとえば中国は、低品質の商品しか作らないという認識を変えようとしています。イタリアはスーパーカー、フランスは高級品を作る国として自国の地位を確立しようとしています。賢い人なら「これらの分野で参考になるためになにをしたのか?」と自問自答するはずです。私がここから学んだことは意図性です。これらの国々は、ある方法で自分たちをブランド化したいと考え、行動したのです。これはとてもシンプルですが、私たちアフリカ人はもっとそれを望む必要があります。

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デザイナーとしてGuidioneが携わった数々の印象的な仕事はインターネットのあちこちでみることができますが、彼のサイドプロジェクトはおそらくさらに刺激的で、驚嘆をもたらすでしょう。私たちのおすすめを紹介します。

  1. Kabum Digita:モザンビーク最大級の科学技術マガジン
  2. Gomarket:南アフリカ共和国最大のビジネスディレクター
  3. Cool Kids Podcast:科学技術やデザイン、企業家、生活などに関する隔週のポッドキャスト
  4. World-class Design Podcast:世界レベルのデザイナーへのインタビューシリーズ
  5. World-class Designer Conference:2021年に開設。このカンファレンスは3つのタイムゾーン、6つの大陸で開催された24時間のデザインイベント。45以上の講演、新入社員の集会、ワークショップがおこなわれました。
  6. World-class Designer School:大学レベル授業が無料な、ピアツーピアの学習環境のデザインスクール
  7. Design Sura:キャリアの初期段階にいるデザイナーのためのデザイン原則コレクション

もっとGuidioneについて知りたいと思ったら、彼のLinkedInTwitterをフォローするか、ウェブサイトをチェックしてみてください。

Written by Alejandro Matamala (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

カバー写真:「High-Resolution Image Synthesis with Latent Diffusion Models」(出典:Runway)

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Design Matters Tokyo

Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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