よりアクセシブルでインクルーシブなデザインのためにデザイナーが気をつけるべきこと

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:https://demagsign.io/get-on-the-path-to-accessible-and-inclusive-design-with-laura-kalbag/

あなたは自分のWebサイトに、特定の誰かがアクセスしにくくなるような障壁があるかどうかを考えたことはありますか? すべての人が使える、つまりインクルーシブなWebサイトであることが理想です。この記事では、そのためのアプローチとして重要なアクセシビリティについて詳しく知り、あなたのデザインにアクセシビリティを取り入れる方法をみていきます。

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英国のデザイナーであるLaura Kalbag氏は、小さなNPOであるSmall Technology Foundationの共同創業者です。この組織は、なんと2人と1匹のハスキー犬で構成されており、利益よりも人々の生活を豊かにするためのミニマルな技術をデザインすることを目的としています。彼らは以前、iPhoneやiPod向けにBetter Blockerというプライバシー保護サービスをつくっていました。これはトラッキング、つまりインターネットにおける行動履歴の追跡からユーザーや個人情報を守るためのサービスです。Lauraはデザインから開発、コード記述まであらゆることをこなし、プライバシーと権利に配慮した技術の恩恵を多くの人が受けられるように活動しています。

Laura Kalbagと彼女のハスキー

さらに彼女は、A Book Apartから出版された『Accessibility For Everyone』の著者でもあります。この本でLauraは、Webアクセシビリティにおける固定観念について言及し、ユーザーに大きな影響を与えるためにデザイナーがどのような方法を取るべきかについて紹介しています。

この本をきっかけに私たちはLauraにインタビューを行い、よりアクセシブルでインクルーシブなデザインの方法について学びました。

── アクセシブルなWebサイトをデザインする上で、もっとも重要な選択肢や機能を5つ挙げるとしたらなんでしょうか?

もっとも重要なものを5つだけ挙げるのは難しいので、今回はマインドセットに関わる要素2つと、実践的な要素3つに絞ってお話ししますね。

(出典:Unsplash)

1. 障がいを持つ人たちの声に耳を傾ける

障がいを持つ人も含めすべての人が平等に利用できるWebサイトを作るためには、対象者となる人をデザインプロセスに巻き込む必要があります。たとえWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)が定めている設計とは異なっていても、ユーザーが求めるものであれば問題ありません。近年、Web業界では作り手と使い手の距離が広がっているように思えます。これは、作り手がリアルなユーザーのフィードバックよりもデータを重視する傾向が強まっていることに起因します。

2. アクセシビリティに優先順位を付ける

アクセシビリティを考慮するからと言って、請求書に記載される工数が増えるわけではありません。インクルーシブなWebサイトを作るということは、そのプロジェクトに関わる全員がプロジェクトおけるアクセシビリティを意識し、そのサイトが誰にとっても使えるものになるようなソリューションを追求するということであり、最低限実現すべき要素のひとつなのです。リリースした後に確定したパーツに手を入れたり、あるいは後のバージョンに手を入れたりしてアクセシビリティを向上させることは非常に難しいです。

WebAIMは過去3年間に渡って、上位100万件のWebサイトを対象にアクセシビリティ分析を実施しました。この分析は自動化されていて、実際のユーザーのネット上での体験をそのまま表すものではありませんが、注目すべきデータが数多く得られています。この分析を通して明らかになった、WCAGに準拠していない一般的な3つの間違いは、とても簡単に修正できるものです。

(出典:accessibility.colostate.edu/color-contrast/)

3. 低コントラストのテキストを避ける

背景色とテキストカラーのコントラストが低い場合、読みづらくなる可能性があります。デザイナーはさまざまな理由から、白い背景に薄いグレーの文字を使用することを好みます。彼らにとって、それが「整っている」ように思えるのです。しかし低コントラストのテキストは、視力に問題がある人や品質の低いスクリーンで閲覧する人、非常に明るい場所で見る人にとって、たいへん読みづらくなります。

4. 画像に代替テキストを用意する

当たり前ですが、代替テキストは用意するだけでなくうまく書きましょう。画像の場合、視覚に訴えるコンテンツが非常に多いので、代替テキストを用意していない場合、目の見えない人たちと体験を共有することができません。画像の要約とその画像をおいている理由が伝わるように説明を追加しましょう。最近ではSNSでも代替テキストを追加することができますから、どのように書けばユーザーにより良く伝わるか、良い練習になるでしょう。

5. 入力フィールドには必ずラベルを付ける

検索ボックスが検索ボックスであるとわかるのは、なぜでしょうか? 小さな虫眼鏡のアイコンはついていますか? それだけで、なにを入力すればよいのかユーザーは認識できるのでしょうか?

ラベルは常に設置する必要はありません。とくにフォームの位置やボタンのテキストが、ユーザーに操作の手がかりを与える場合はなおさら必要がないものです。しかし、そのような場合でもラベルをつけることで、認知障害のあるユーザーやウェブに不慣れなユーザーの役に立つことは間違いないでしょう。一方で、視覚的な障がいがある方にとってはどうでしょうか? 視覚的な手がかりを認知できないユーザーでも入力フィールドの機能を理解できるように、ラベルが技術によってプログラム的に見えるようにする必要があります。

(出典: css-tricks.com/float-labels-css/)

── ある人には合うものでも他の人には合わないことがあり、その結果それぞれのニーズが対立してしまうこともあります。このようなケースを見たり、経験したりしたことはありますか? デザイナーはこうした事態をどのように避けたらよいのでしょうか。

文字のサイズが良い例です。たったひとつのサイズがユーザー全員にとって最適なわけではありませんよね。視力の良い人にとっては小さい文字が読みやすいですし、そうでない人にとっては大きい文字が適しています。この2つのニーズを同時に満たすことはできませんが、多くの人にとって読みやすいサイズをデフォルトとして用意することはできます。大抵の場合、大きめの文字が採用されます。その上で、ユーザーが自身の好みに応じて大きさを変えられるようにし、文字サイズが変わってもインターフェイスが機能するようにするように調整することはできます。

── 初めてアクセシブルなWebサイトやデジタルプロダクトをデザインしようとするときに、起こりがちなミスとはなんでしょうか?

もっともよくあるのは、デザイナーが障がいのある人たちにとって問題だと捉えた部分を、独自のソリューションで解決しようとすることです。Liz Jackson氏はこうして作られたものをdisability dongles(ディサビリティドングル)と呼んでいます。「私たちが知らなかった問題に対する意図的でエレガントだが役に立たない解決策」ということです。たとえば、読み上げ機能を使っているユーザーには、カスタムされた音声インターフェースは必要ありません。いまあるインターフェースで十分であり、その機能が問題なく使えることが重要なのです。また、すべてキーボードで操作を行う人に網羅的なショートカットのライブラリは不要であって、いまあるショートカットが通常通り機能すれば十分なのです。

── 著書の中で、植民地主義的なデザインに関しても語られていますね。植民地主義的なデザインについて「自分たちとニーズが異なっていても、他の誰かにとってベストなことを自分たちはわかっている」という姿勢であると説明されており、また「結果として恩着せがましく、誤った解決策をもたらす場合もある」と述べています。こうしたデザインを避けるために、リサーチやインタビュー、プロダクトのテスト以外にデザイナーにできることはなんでしょうか?

ディサビリティドングルこそ、植民地主義的なデザインの象徴だと思います。こうしたデザインは実際に障がいを持つ人たちにとっては役に立たないものなのです。なぜそんなことになるかと言うと、デザイナーがそのプロセスにおいて障がいを持つ当事者の声を聞いていないからです。

デザインスクールによっては、デザイナーがあらゆる問題を解決するための知識をすべて持っているかのように勘違いさせる所もあります。残念ながらこうした風潮が、他人から教わることはなにもないと思い込んでいるようなデザイナーを生み出しているのです。彼らはあたかも植民地主義のように、他の人は無知で貧しく、困っているので、デザインによって彼らの問題を解決するのだと思い込んでいます。

私たちは自分たち自身のニーズと経験を他の誰よりも知っているのですから、まずは自分たちにとってベストとなるようにデザインします。間違ったデザインソリューションを避けるための最善の方法のひとつは、チームの中に障がいを持つデザイナーを入れることです。チームに多様性を持たせることが重要である理由のひとつは、そオーディエンスに関する知見が得られ、明らかな間違いを避けることに役立つことが多いからです。

それでも、たった1人の人間が自分の属するコミュニティのニーズと経験をすっかり代表できるわけではありません。脳性麻痺を持つ人と、メガネをかけている人はどちらも障がいを持つ人と言えるかもしれませんが、だからと言ってお互いに相手のニーズに対する知見があるわけではありません。WHOによれば、全世界の人口の15%の人に障がいがあります。世界の人口の15%の人が同じニーズを持っているわけがなく、そのニーズは似てさえいないでしょう。思い込みでデザインしてはいけません。本当に機能的なデザインを作るためにはインタビューとリサーチ、そしてテストが意味を持つのです。

アクセシブルなデザインにおいてすべきこと、すべきでないこと
(出典:accessibility.blog.gov.uk

── 他にも著者の中で、アクセシブルデザインとユニバーサルデザインの対比についても書かれていますが、それぞれのデザインと目的はどのように違うのでしょうか?

アクセシブルデザインとユニバーサルデザインの違い、またはアクセシブルデザインとインクルーシブデザインの違いについて言われることのほとんどは、新たなコンセプトを理解する助けとなるその用語に込められたマインドセットの違いです。これらの用語の定義の仕方や、定義が変わり続ける中で有効な比較については私自身も考え続け、答えが変わることがよくあります。

車いすの建築家、Ronald L. Mace氏がユニバーサルデザインという言葉を定義した時、含意されていたのは特別なデザインなしでアクセシビリティを達成するデザインのことでした。

「ユニバーサルデザインとは、努力して適応することも、特別なデザインも必要とせず、できるだけ多くの人が使えるようにプロダクトをデザインすることである」

インクルーシブデザインという言葉は、ユニバーサルデザインをもっと現代的にしたものと言えるかもしれません。また、私たちの生活の中でのテクノロジーの使用方法に影響を与える他の要因について考えるためには、インクルーシブデザインという言葉を使う方が良いかもしれません。歴史的に、テクノロジーを生み出す人たちは裕福で社会の主流にある場合が多く、自分たちのニーズに合わせてソリューションをデザインしてきました。本当のインクルーシブデザインなら、住む場所や金銭的な状況、国籍、教育の程度、母国語、人種、ジェンダーや障がいといった要素によって作られている社会的な障壁を考慮する必要があります。

── あなたは本の中で、アクセシビリティについては専門家に任せるのが1番であるという誤解があるといわれています。アクセシビリティに関しての誤解は他にもなにかありますか?

私が本当にもどかしく思う誤解のひとつは、アクセシビリティとは障がいを持つ人のためになる思いやりの行為であるというものです。アクセシビリティとは、不公平を、既存のデザインの欠陥を正すものなのです。インクルーシブデザインは慈善事業ではありません。私たちが心からすべての人のためにプロダクトを作っているのであれば、それは私たちの責任です。

── アクセシビリティに関する資料や良い事例、プロダクトでおすすめのものはありますか?

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

Written By

Design Matters Tokyo

Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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