ミニマルテックプロダクト「Light Phone」のデザイナーが語るこれからのライフスタイル

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Minimal Tech: Should We All Be Switching To Light?

Light Phoneというデバイスをご存じでしょうか? Light Phoneはネットの世界から離れるためのひとつの手段です。このデバイスには、他の電話に取って代わる魅力があるのです。

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指先ひとつでなんでもできるようになったいま、そもそもなにが重すぎて、なにが軽すぎるのでしょうか?

Design Mattersは、2016年に初めてLight Phoneが登場して以来その存在を追いかけてきました。しかし当時と比べると、テクノロジーの世界は大きく変わりました。そこで、私たちはこのデバイスを開発している会社「Light」のプロダクトデザイナーであるKaiwei Tang氏と連絡を取りました。

今記事では、Design Matters 2019のイベントのテーマのひとつであったミニマルテックの観点から、Light Phoneというプロダクトが発売から4年間でどのような進化を遂げ、そしてこれからどこへ向かっていくのかを探っていきます。Kaiweiは彼の哲学について解説するとともに、「軽量化」は単なるプロダクトの性能ではなくライフスタイルそのものだということについて詳しく話してくれました。

(出典:The Light Phone) 

──始めに、Light Phoneについて教えてください。

既存のスマートフォンはいかにユーザーの注意を引くかというポイントに偏ったビジネスモデルとなっています。そのようなビジネスモデルから一線を画したデバイスを作りたいという私の想いから、Light Phoneのコアバリューは誕生しました。たいていのアプリやソーシャルメディアの提供者は、「ユーザーは毎日2時間ウチのアプリを使っているんだ」という自慢をし、自分達の成功の尺度を測っています。この傾向に私はうんざりしているのです。

そんな風潮へのアンチテーゼとしてLight Phoneは作られました。スマートフォンを使っていれば、クルクル回る円形のアイコンや広告、さまざまな色やアニメーションなど、あらゆるものがあなたに向かってなにかを訴えかけてきます。

私たちは、そのような従来のスマートフォンとは真逆のデバイスを作ることにしました。それは、ただひとつのことだけを忠実にこなす素晴らしく洗練されたデバイスです。他にはなんの役にも立ちません。一度使ったら2時間も使い続けるようなものではなく、ハンマーやドライバーと同じように、使っては戻し、使っては戻しの繰り返しです。

(出典:The Light Phone

いまあなたが使っているスマートフォンはもはや道具ではなく、ミニコンピューターなのです。

私たちはテクノロジーに反対しているわけではありませんし、スマートフォンが悪いと言っているわけでもありません。そうではなく、テクノロジーが私たち人間から力を奪うような方向に発展していると言いたいのです。

人々は不必要にデータを取得され、ネガティブなニュースを見せられています。だからこそLight Phoneをデザインしたのです。このデバイスはできるだけ使われないようにデザインされています。いえ、そもそもLight Phoneだけでなくあらゆるツールは使われないように、目につかなくするべきなのです。

──確かに、ネットなどの仮想空間はストレスのかかる環境です。しかし世界中で何十億人もの人が使っているのですから、スマートフォンを持つことで便利になることは間違いないでしょう。Light Phoneのターゲットはどんな人たちなのですか? スマートフォンを持っている人たちとは別の人たちが、Light Phoneを買っているのでしょうか?

私たちの提供しているプロダクトに興味を持つ顧客は3つのセグメントに分けられます。最初のグループはミュージシャン、デザイナー、アーティストなどのクリエイターで、スマートフォンを持たない人たちとも言えます。「2時間、2日間、あるいは2週間、ネットを手放して出かけてみましょう」などと私たちに言われるまでもなく、彼らはプロダクトの意味を理解できるでしょう。

(出典:The Light Phone) 

2番目のグループは、都心部に住むビジネスパーソンです。彼らは仕事用のデバイスを持つ一方で、週末や就業後、デートなどプライベート用のデバイスも所有しています。彼らは片時もスマートフォンを手放せないので、メールから逃れることはできません。しかし私たちなら彼らを開放することができます。このグループの人たちは、Light Phone Ⅱを2台目の携帯電話にしたいと考え、私たちを訪ねてきます。誰しも場所が変われば違う靴を履いて違う服を着るのですから、スマートフォンではないデバイスを使ってみることも可能でしょう。

最後のグループは子どもです。このグループが私たちの顧客になることに、初めは驚きました。大人のためにデザインしたのであって、子どもに向けてデザインしたわけではなかったからです。しかし、学校や親が「アプリもソーシャルメディアも使わないので子どもにぴったりだ」と言って注文してくれるのです。親が自分の子どものためにLight Phoneが最適だと思ってくれたことは私にとって嬉しい驚きでした。つまりは、誰でも「light」であることを楽しめるということなのです。

(出典:Getty

──年上の世代のアーティスト、特に成功しているアーティストがこの電話を好むのはわかりますが、親たちはこの電話が子どもたちにとって最善の選択肢だと思っているのでしょうか? インターネットが使えないということは、つまり道案内や地図のサービスが使えないということです。また、社会的に孤立してしまうことも考えられます。これらは、あなたのプロダクトに欠けている要素だと思いますか?

実は私たちの電話にも、ステップバイステップで案内を行う「道案内」機能があります。数年前の初代Light Phoneは電話をかけることと受けることしかできませんでした。スマートフォンユーザーの2台目の電話としてデザインされていたからです。

2017年から10,000台ものLight Phoneを出荷し、ユーザーから「スマートフォンからLight Phoneに乗り換えることに満足しているが、もうひとつLight Phoneに機能を追加してほしい」という多くのフィードバックが寄せられました。誰しも、もっと手軽に使いたい機能があって、私たちはその手軽さがより良いものになるようにしたいと考えています。ユーザーは、もはやLight Phoneを単なる2台目の電話として認識していないのです。

そこで私たちは、2019年にLight Phone Ⅱを発表しました。初代と同じくクレジットカードくらいの大きさで紙のような薄さですが、新しくツールボックスを備えた点が重要です。

私たちのツールにはいくつかの原則があります。まず、インターネット上の情報を必要とせず、ソーシャルメディアも、メールも、広告も使わないこと。広告主に収益を作ってあげようとは考えていません。そして、あらゆるアクションが明確な目的を持つこと。無限に検索し続けたり閲覧し続けたりできないことが重要です。たとえば、A地点からB地点からの行き方を知れば、プレイリストを聴けば、誰かにテキストメッセージを送れば、そのツールの出番は終わりです。明確な意図があるということを私たちは非常に重視しているのです。

時間と注意力は貴重なものです。燃え尽き症候群という言葉がよく使われますが、それほどまでに私たちは相当な時間をスクリーンを見ること割いています。取り残されることに対する恐れやストレスと不安、またデータ保護にまつわるプライバシーの問題などは、すべてソーシャルメディアに関係することです。そうした問題は未解決であるばかりか、ますます悪い方向に進んでいます。私たちは、デジタルライフと現実の生活をきちんと区別しなければなりません。

──Light Phoneになにか他のツールを追加する計画はありますか?

私たちのWebサイトにはダッシュボードがあり、ユーザーは自分が欲しいツールをドラッグアンドドロップで選べるようになっています。私たちの目下の仕事は、それらのツールをデザインし、使えるようにすることです。あとひとつ、重要なツールを提供できれば、Light Phoneは間違いなくもっと便利なものになり、さらに100万人のユーザーを引きつけることができると思います。

(出典:The Light Phone

──ソーシャルメディア依存が強くなってきていると言われましたが、Light Phoneはこのトレンドに逆行しています。世間のこの傾向はプロダクトの検討過程で、懸念点になりませんでしたか?

誰かと繋がることと、自分だけの時間を持つことのどちらかしか選べないわけではなく、スクリーンを見ている時間とそれ以外の時間のバランスを見つければ良いだけなのです。Light Phoneには「リフレッシュ」という機能がありますが、これは集中の邪魔になるものを排除するもので、ユーザーの注意を捉えるためではなく、やるべき事を素早く済ますためにデザインされています。

Light Phoneは別に魔法の薬ではないので、スマートフォン依存の解決策となるとは思えません。解決のための第一歩とは言えますが、使えば万事解決というようなプロダクトではないのです。Light Phoneを使えばあらゆる誘惑を取り除くことができます。これは簡単なことではありません。しかし、電話を手放したり、気分が悪くなるような話をゼロにしたりすることはできないのです。現実から逃れられないとしたら、あなたはなにをしますか? 

つまり、私たちが問いたいのは「あなたにとって大事なものはなんですか? なにを大事なことだと捉えていきますか?」ということです。

(出典:The Light Phone

──「ミニマルテック」のデバイスを使うなら、もっと多くのものが必要になります。軽くなろうとした結果、他のデバイスを求めるのであれば、「軽くする」という行為は難しいことのようにも思えます。あなたがいま直面しており、解決しようとしている課題や制限事項には他にどんなものがありますか?

Light Phoneは10ドルでは買えません。350ドルもする買い物なので、当然ですがそのお金を払える人しか顧客になりません。もっと安くしたいのですが、小さな会社なので力を入れるところと諦めるところを選ばなければなりません。これこそが私たちが直面した現実です。

カスタマイズされたソフトウェアとハードウェアを備えたプロダクトを、10ドルで売ることはできません。誰しもが、スマートフォンに何千ドルもかけてきました。ではそこに、生活を軽くすることができる選択肢があったらどうでしょうか。350ドルは、精神的、社会的な幸せを達成するために払うべき金額としては高すぎるものではありません。

──プロダクトのスクリーンにE-Inkスクリーンを選んだのはどうしてですか?

私たちがしていることすべてに理由があります。私たちは、できるだけデバイスの存在感を消したいのです。もちろん、優れたデザインである必要はありますが、デザインが目的ではありません。デザインが目立つべきではないのです。控え目でさりげない存在感だからこそ、私はこのプロダクトが好きです。物静かな背景の一部のように、ほとんど目につかない存在でいてくれるのです。また、バッテリーの消費量が少ないので、フル充電すれば2日間は使えます。

それから、キーボードも普通とは異なっています。キーボードを使う時に誤入力は付きものなので、多くのユーザーがゆっくりと丁寧に打ちこんで、間違わないようにしなければならないと感じています。小説を書くわけではないので、私たちはユーザーに自分自身が使う言葉についてもっと意識的になってほしいと願っています。

また同時に、電話の方が効率的だと思う人は以前よりも多く誰かと話すようになっています。これは、興味深い副産物です。

(出典:The Light Phone

Design Mattersでは、ブルーライトから目を守るために3人が眼鏡をかけています。しかし、Light Phoneを使えば眼鏡をかける必要もありません。ブルーライトを浴びる機会自体がなくなるのです。これは、とても素晴らしいことです。

しかし、私たちにとって物事を素早く効率的に処理することが当たり前となっているため、携帯電話を使うときに物理的に速度を落とす必要があるということは、生活のペースが乱されてしまい異質なものに感じられるでしょう。もっとも、これはこれで悪くないかもしれませんが……。

果たしてこの商品は売れ続けるのでしょうか? これから人気がでるのでしょうか? ある種の “遊び”とはなり得ますが、現実的な未来のシナリオなのでしょうか? Design Mattersは、引き続きこのプロダクトの動向を見守りたいと思います。

Written by Ella Braimer Jones (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

Written By

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Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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