水産流通に変革を。鮮魚のマーケットプレイス「UUUO」がもたらすデジタルの力

世界的にも注目されている日本の魚食文化。しかし水産業界は、人手不足や高齢化などさまざまな問題に見舞われています。そんな中で、マーケットプレイス型アプリとして存在感を増しているのが「UUUO(ウーオ)」。彼らがどのように業界に参入し、そのニーズを掴んで成長しているのか伺いました。

土谷 太皓 | 株式会社ウーオ 取締役CPO

新卒でクックパッド株式会社に入社し、レシピサイトやクックパッドAndroidアプリのサービス開発を担当。PT. COOKPAD DIGITAL INDONESIAへの出向を経て、より上流の水産業でインパクトを起こしたいと考えウーオに入社。

久保坂 美咲 | 株式会社ウーオ UI/UXデザイナー

新卒でクックパッド株式会社に入社し、新規アプリの立ち上げや、レシピサービスのiOS/Androidアプリのサービス設計・UI/UXデザインを担当。 水産業の課題の複雑さや、解決難易度の高さにデザイナーとしてのやりがいを強く感じ、2022年に株式会社ウーオへ入社。

まずはプレイヤーになることから。鮮魚のマーケットプレイス型アプリ「UUUO」の第一歩

── まずはじめに、「UUUO(ウーオ)」について教えてください。

土谷:UUUOは、魚を売りたい業者さんと買いたい業者さんをつなぐ、鮮魚のBtoBマーケットプレイスです。全国各地の漁港で水揚げされ、競りで買い付けられた鮮魚の売買が行われています。売り手と買い手でそれぞれ欲しい機能や、私たちが提供したい価値が異なるため、 アプリは「発注用」「出品用」に分かれています。

水産業界の流通をデジタル面でサポートする「UUUO」

土谷:もともと創業者の板倉は鳥取県網代港近くの生まれで、代々家族で漁船を有していたりと水産業が身近にありました。帰省する度に船の数が減り、港が寂しくなっていく姿に、業界の衰退を感じていたそうです。「昔は高く売れたのに、今は漁に出る度に赤字になる」「子どもに継がせたくない」とも言われていたそうで……。問題は流通の構造自体にあると考え、その解決を目指してUUUOを立ち上げました。

── そもそも水産業界とはどのような商流を持っていて、その中でUUUOはどこに位置するのでしょうか?

土谷:全国に約2,700ある漁港に、まずは漁師が釣ってきた魚が集まります。そこに「産地仲買(以下、仲買)」いわゆる魚屋さんが集い、競りに参加して魚を買い付け、競り落とされたものが市場やUUUOに出品されるという流れになります。購入者となるのは、スーパーのバイヤーや飲食店のシェフ、彼らに販売する仲卸業者などです。

さまざまな立場の方が関わる水産業の流通構造

── その商流の中で、どのような点が問題になっていると考えられたのでしょうか?

土谷:主に売り先が固定化されている点、そして電話やFAXでのやりとりが主流で1対1のコミュニケーションが多く生産性が上げにくいという点です。業界への理解度をあげ、これらの問題点を見定めるにあたっては、会社で仲買免許や買参権(買い付けの権利)を取得して実際に水産業界のプレイヤーとして売買に参加してきました。

── 業界理解のために免許まで取得し、実際に売買にも携わってきたとは…!

土谷:当初はプロトタイプのテスト利用のお願いに行っても門前払いされてしまったり、「手が濡れてるから、そもそもスマホ操作なんてできないよ」と断られたりしてしまったんです。業界のことをまったく理解できていないことを痛感しました。プレイヤーとして携わることを通じて、現実的に可能なオペレーションのイメージを掴むことができたのではないかと思います。

聞いたところによると、その港での新規プレイヤーの参入は十数年ぶりだとか。免許の取得には他の仲買の方の賛同も必要なので、代表の板倉は本当に足しげく港に通っていましたね。

久保坂:業界や現場への理解が非常に重要だからこそ、エンジニアもデザイナーも全員まずは市場に行って観察したり、ヒアリングしたりします。自分の目で見てきたものがあると、どのようにデジタル化すべきか、どんなものなら使えるのか、やはり判断がつきやすいです。観察する中で発想した「出荷先ラベルをプリンターで出力できる機能」が好評を博すなど、現場で見て肌で感じたことがプロダクトづくりに生きています。

売って分かった「時間の勝負」、買って分かった「鮮度の基準」

── プレイヤーとしての参入を起点に、その後どのようにマーケットプレイスへの発展を進めてきたのでしょうか?

土谷:まずは仲買免許を取得した鳥取の漁港に「UUUO Base」という拠点をつくり、そこでUUUOを使って魚の売買を行いました(拠点自体は2022年に終了)。最初に注力したのは出品側のブラッシュアップです。購入者はスーパーのバイヤーや仲卸業者など、ある程度の物量を購入してくださる方々をまずは開拓し、効率的に出品登録を行って多くの商品を案内できるように磨き、当時のKPIであったGMV(流通総額)の拡大へとつなげていきました。

鳥取の漁港に「UUUO Base」を構え、水産仲買事業を展開

土谷:徐々に流通量が増える中で生じたのが、僕たちだけでは提供できる魚の数や種類が限られていたり、天候不良で水揚げがなく出品できないという問題です。そのため次に、産地連携の形で他の漁港の仲買さんにもアプリで出品してもらえるような仕組みをつくりました。このように、はじめは自ら出品を行いながら買い手を開拓し、その後徐々に出品側を増やしていくなど、常に需要と供給のバランスをとりながら展開してきました。

── 実際にプレイヤーとして売買を行って得た知見には、どのようなものがありますか?

久保坂:出品側として感じたのは、「本当に時間の勝負なんだな」ということ。その日水揚げされたものを、鮮度が劣化しないようなるべく早く注文を取って出荷するオペレーションは、非常に特殊なものです。より短時間での出品や出荷作業の効率化が達成できるよう、プロダクトを磨いていきました。

購入側としては、やはり何よりも「鮮度」が重要であることを感じました。刻一刻と変わっていく特殊な商材に対して、期待通りの鮮度感で買えるかどうか、アプリ上のやりとりで完結させるにはやはり不安が伴うものです。その不安を払拭すべく、さまざまな方法で情報を補えるようにしています。

── 具体的に、どのような機能があるのでしょうか?

久保坂:魚の鮮度を購入者にわかりやすく示す機能として「鮮度評価機能」というものがあります。魚の鮮度は主に「生食向き」「加熱用」などの項目で評価していただくのですが、そもそも生で食べることのない魚種があったり、エビであれば「色」、カニであれば「生きているか、死んでいるか」が重要など、魚種によって評価基準がまったく異なります。そのため魚を特性ごとに何グループかに分けて、適用すべき評価基準軸を判断しています。グルーピングしたり基準を適用する際には、UUUO Baseで売買をしていたメンバーの知識や経験が役立っています

https://note.com/misaaa09/n/nb1f1ef3a44d7#3d4b73bf-68aa-433b-b623-945f7083de29
「鮮度評価機能」開発の過程はこちらのnoteでお読みいただけます

デジタルの力で変わるコミュニケーションの形。競り前の時間を最大限に活用するために

── 出品側の話で、先ほど時間の勝負であることをお聞きしました。もともとは対面や電話で1対1で行われていたコミュニケーションをデジタルに置き換える点で、考慮したり工夫したことはありますか?

久保坂:アプリ上での出品形態としては、買い付けた後に販売する形と、お客さんから事前注文を取る形のふたつを備えています。これまでの一般的な流れでは、競りの前に電話をして「何ケース買いますか」などと確約をとって競りに参加する場合が多かったので、後者はそれを模したものになります。

土谷:仲買として参加しているときに特に感じたのは、朝の競り前の時間にかけられる電話の数には限りがあるということです。「30分後に競り」となれば、1件2,3分として10件が限界ですし、そうなるとやはり大口のお客さんから電話していくことになります。相手によっては、要件だけでなく雑談に花が咲いて長電話になってしまったり(笑)。そうすると、新しいお客さんを開拓できるような時間の余裕がないのです。

── 既存客へのフォローで手一杯になってしまいそうですね。しかも短い時間で電話をたくさんかけるとなると…丁寧なコミュニケーションをするのは難しそうに感じます。

土谷:短時間での電話のやりとりだと、出品側はどうしても「買ってくれるなら情報を伝えるよ」というモチベーションになってしまいます。ただし売買が成立するにはサイズ、価格帯、数量、鮮度感などの情報が必要ですよね。これらを購入側が把握するために何ラリーも会話が続いても、買われずに徒労に終わるケースもありますし、逆に出品側の「情報を聞き出すなら買ってね」という姿勢に購入側が疲弊してしまうこともあるように感じました。

そういった部分も、UUUOでの一斉通知であれば情報を広くまんべんなく届けることができるので、効率的だと感じてくださる方も多いですね。またこういったコミュニケーション上の難しさを、UUUOが間に入ることで軽減することもできているのかなと思います。

── とはいえ、電話で済んでいたところから情報を入力するとなると、億劫に感じる方もはじめはいらっしゃったのではないでしょうか?

土谷:その点は「出品コピー」という機能でカバーしています。漁業という特性上、入力項目は多いですが、シーズンの中で水揚げされる魚の種類等が大きく変わることは少ないので、1回登録すれば同じ情報を行き渡らせることができます。毎日の出品もコピーである程度埋めて対応することができるので、効率的だと感じてもらえているようです。

久保坂:出品体験は非常に重要なので、基本的には文字入力不要とし、選択肢からのタップだけで済むようにもしています。結果的に、出品まで1分もかかっていない方がほとんどです。

── 新規顧客の開拓がしにくいのは業界としてもリスクだと思うので、手間を省き、情報の流通を支えることで、その機会を広げるきっかけになっているのも素晴らしいです。

土谷:ユーザーの中にも、その点に価値を感じて下さっている方は多いですね。あとは、テストマーケティングとして使っている方もいらっしゃいます。「これまで大阪エリアに対して売れたことがなかったけど、出品してみたら意外と売れることがわかった」など、発見を得てもらえているようです。

出品側としては、これまで電話連絡できる数に限りがあった分、定期的に連絡できていない得意先に魚が余ったからといって突然連絡するのもはばかられる状況がありました。それが、UUUOであれば定期的に情報発信をすることができるので、そのような場合にも案内しやすいとお聞きしています。

購入側としても、これまでは産地に通い、関係者と信頼関係を構築して、やっと仕入れさせてもらえるのが業界の慣習でしたが、UUUOを活用することで欲しい魚を簡単に購入することができるようになりました。デジタルの力によって、新しい商流が生まれているのはとても嬉しいですね。

魚の購入をもっと手軽に。新しい流通の形を機能にして提案する

── 「UUUOならでは」を込めた機能などはあるのでしょうか?

久保坂:もともとの購入側ユーザーには小売店のバイヤーや仲卸の方が多かったのですが、最近は飲食店の方などにも裾野を広げているところです。

その中で大きなネックになっているのが、購入量です。現在は市場の売買量がベースなので、1魚種5キロほどのロットなのですが、やはり飲食店の方からすると多すぎて使いにくいんですよね。もっと少量で買いたいという声を多数いただいていました。

そんな中で、最近リリースしたのが「小ロット交渉機能」です。これは、小ロットでの購入希望をいったんUUUOが一次受けして集約し、出品側に要望として出すという機能です。小ロットで販売するには、小分けにするための仕立て直しなどのコストもかかってしまうので、大きなハードルがありました。そのため、まずは「小ロットで買えるなら買う」という購入者がどれくらいいて、どれくらい出品側は相談に乗ってくれるものなのか、私たちが間に入ってテストしている段階です。

最近リリースされた「小ロット交渉機能」

── プレイヤーとして動けるからこそできることでもありますね。実際の反応はいかがですか?

久保坂:思っていた以上に交渉希望がありましたし、出品側に相談してみても、対応いただけるケースが非常に多かったんです。現在はこのテストでの経験を落とし込んで、私たちを介さずとも、小ロットで売買される仕組みづくりを行っているところです。やはり「UUUOが介在するから」ということで対応いただけている方も多いので、それをどうプロダクト上で実現していけるかが大きな挑戦になりそうです。

水産業界の商習慣を変え、若手の方にも門戸を開きたい

── 今後の展望として、どのようなプロダクトを目指しているのでしょうか?

土谷:マーケットプレイスとして、さらに拡大させていきたいですね。購入側に対しては、まだまだ出品数が少なく買える量に制約があるのを改善していきたいと考えています。一方出品側には、さらに商品を案内しやすくして、出品したらすぐに売れるという成功体験を提供していきたいです。現在は出品するタイミングや魚の種類によって売れるまでに時間がかかるケースも存在するので、買ってくれそうな方に対して、出品に関する情報を適切に届けられる仕組みをつくっていければと思います。

── その理想に向けて、今課題を感じている点や改善していきたい部分はありますか?

久保坂:購入側にとっては、商品が増えるほど欲しい商品と出会いにくくなりがちなので、自分に合う商品が見つけやすい仕組みを磨かなければいけません。レコメンドの精度や検索のバリエーションを改善し、より買いやすい場所にしていきたいと考えています。

また現在は、小売りの方や仲卸の方などある程度魚の知識がある方を想定したつくりになっているので、飲食店の方などが見た場合に少々使いにくいのではないかと思います。アプリの利用体験をイメージしやすくしたり、初回購入のハードルを下げたり、小ロットでの購入をしやすくするなどの改善を重ねることで、伸びしろに変えていければと思います。

土谷出品者と購入者がつながりつづけ、売買が積極的且つ自律的に行われつづけていく仕組みづくりに注力していきたいですね。僕たちがプレイヤーとして間に立ってコーディネートしてきましたが、これからはどんどん「ミニUUUO」的な動きをしてくださる方やUUUOを使いこなしてくださる方が増えていくように、モデルケースやベストプラクティスの発信も強化していければと思います。

── 業界に対する課題感から立ち上がったプロダクトですが、今後どのように業界に貢献することをイメージしていますか?

土谷:UUUOが人手不足の問題に対する解決策のひとつになれたらと思っています。長年の経験と勘を頼りに電話での取引で回ってきていた業界ですが、たとえば経験の浅い若手の方がUUUOで出品して販売してみたり、産地にあまり関わりがない方でもUUUOで探して仕入れをしてその先のお客さんのニーズに答える、といったことができるように意識しています。

実際に、新卒の方が「UUUOを使っていいよ」と上司から言われて産直仕入れをはじめ、卸先の飲食店から喜ばれているというエピソードなどもお聞きしています。UUUOの存在があることで、若い方が業界に入りやすくなったり、新しい販売や仕入れの方法が生まれたりするきっかけになったり、その動きを推進できればと願っています。

取材協力
株式会社ウーオ コーポレートサイト

「UUUO」サービスサイト

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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