型破りでサステナブルなファッションデザイナー、Maxjennyの仕事

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Maxjenny!: What It’s Like Being An Unconventional And Sustainable Fashion Designer

Maxjennyはコペンハーゲンを拠点とするファッションブランドであり、身内で固まりがちなファッション業界に新風を吹き込んでいます。彼らは、信頼とサステナビリティ、そして結果のためにこつこつと働くことに焦点をあてて、彼らの取り組みについて語ってくれました。

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スウェーデン出身のデザイナーであるMaxjenny Forslund氏は、2017年にコペンハーゲンを拠点としたラグジュアリーファッションのブランドであるmaxjenny! を設立しました。シンプルなライン、明るい色、ハンドメイドのカラフルなプリントを組み合わせた彼女のデザインは大きは反響を呼んでおり、これらの作品はデジタルカメラと鉛筆、そしてコンピューターのみを使用して生み出されています。

このブランドはリサイクル素材や、そのほかのサステナブルな素材だけを使うことを目指しており、コペンハーゲン内での配送は自転車を使うなど、輸送手段さえも環境に負担の少ない方法にこだわっています。maxjenny!の最新アウターはペットボトルからリサイクルされた素材で作られており、彼女が作るプリントはすべてGOTS認証を受けたインクで作られています。

また、maxjenny!は大量生産を行っていません。これは、サステナブルなファッションの仕組みを後押しするための大きな1歩です。

maxjenny!のシーズン毎のコレクションは、アイテム同士にコントラストを持たせない点も特徴です。リユースしやすいように各アイテムがお互いを補完するようなデザインになっているのです。

現在ファストファッション業界は石油業界に次いで、2番目に大気汚染に寄与している業界となっており、全世界の有害物質排出量の10%を占めています。さらに、安くて有害な染料を使って衣類を生産することで、原料の収穫以降の工程で世界で2番目に水の汚染にも寄与してしまっているのです。

(出典:Instagram)

── 作品の制作プロセスについて教えてください。写真を撮ってそれを元にプリントを作られるということですが、その方法やテクニックを教えていただけますか?

難しい質問ですね。写真を撮って、カット&ペーストをしていますが、その瞬間は自分がなにをやっているのかよくわかっていないのです。しばらく経ったあとになにかクリエイティブな気づきがあり、そこから長いプロセスが始まります。作品を1週間か2週間、寝かせることが必要があります。

時間をおいてまた見てみる、それから整理すると新たな発見があります。色を考え、組み合わせを考え、あらゆる方法を試し、余計な部分を削ってやっと完成します。それからいくつかバリエーションを作って、やっと世に出せる形になります。

(出典:Instagram)

── Webサイトで、ご自身のファッションに対するアプローチが他のブランドに比べてアートに近いとおっしゃっていますが、たとえばどのような点でしょうか?

私は、ほかとは一線を画すような、意味を込めた服しか作りません。普通なことはなにひとつしませんし、作ったプリントを使いまわすこともありません。その結果、すべての作品はユニークなものになります。

私は自分が抱えられる限界のサイズで作品を作るので、2.5メートルほどの大きさのデザインから素材を取ることができます。自分の作りたいものを見つけ出すために、いろんなものを繋ぎ合わせるようなことはしないので、アーティストのような作り方を私はしていると思います。

── インタビューの中で、「コペンハーゲンを拠点にしているということは、通常よりも挑戦的なことだ」とおっしゃっていました。たしかに周辺の北欧の国よりもコペンハーゲンの方が少し挑戦的だということはわかりますが、ロンドンやニューヨーク、ミラノ、東京などの都市と比較してコペンハーゲンの人は「やり過ぎてしまう傾向がある」というのはいい過ぎではないでしょうか?

おっしゃる通りかもしれません。私は実際にファッション都市にいるわけでも、そうした場所を肌で知っているわけではありません。

これを話したときに念頭にあったのは、私がふだん歩く近所の様子です。パジャマでパンを買いに出かける女の子や、父親のスニーカーにデニム、飾り気のない服を着る女の子がいるかと思えば、全身Vibskovで揃える人、柄や色を統一したmaxjennyのスーツで固める人もいます。しかし私の出身地ストックホルムでは、そのような人はいません。ストックホルムの人はもっと高級な服でおしゃれをしています。いわば、お金をかけて服を着ているのです。

コペンハーゲンのファッションやアートのイベントに行きますが、本当に刺激的です。たしかに私たちは「やり過ぎ」ているかもしれません。ですがこれは馬鹿げたことばかりではなく、よい意味でやり過ぎているのです。あちこちに散りばめられたディテールが、全体をクールに仕上げています。

コペンハーゲンのストリートライフとダンスミュージックを
フィーチャーしたイベント、Distortionでの写真(出典:Soundvenue

── 世界的に見れば、北欧のファッションはどちらかと言うと均質で、モノクロのファッションが主流です。派手な色や柄はあまり見かけません。夏には花柄のプリントや大きなサイズの服を着るデンマークの女性を見かけますが、局所的なトレンドのようです。おそらく、スウェーデン語で言う「lagom」という北欧のカルチャー独特の概念が背景にあるのではないかと思います。ファッションにおけるこのような順応主義的な傾向は、カラフルでやや奇抜なスタイルを作られているあなたにとって障害にはならなかったのでしょうか?

(出典:Göteborgs Posten

まったくそんなことはありませんでした。「lagom」という概念は知っていましたが、頭をよぎったことは一度もありません。もしかしたら、育った環境のおかげでほかの人ほど影響を受けなかったのかもしれません。

私は2,500平米の家で育ちました。そこでは大言壮語が当たり前で、誰もが不可能なことはなにもないと信じていました。その広さと環境のおかげで、私たちは自由な発想を持つことができたのです。私のコペンハーゲンのフラットは95平米ですが、当時の家のキッチンだけで100平米ありました。

また、私はこの「lagom」の考え方や、「ヤンテの掟」に沿うような考え方を教えられて育ったわけではありません。私は、メンフィスグループのデザインに囲まれた環境で育ちました。そこは、いたる所に鏡があり、窓は壁よりも大きく、すべてが規格外の場所でした。自分自身でやる必要があるにせよ、なんでもできましたし、なにもないところからすべてを作りました。世界との距離がずっと近かったのです。

それでも小さい頃、私はいつもお古を着て、新鮮なニンジンを食べていました。私の母は、ファッションデザイナーでありながら農家の嫁でもあるため、ニンジンを洋服に交換していたのです。

── あなたのブランドのビビットなプリントは、マドンナやスウェーデンのヴィクトリア王女など多くのセレブを魅了しています。maxjenny!の顧客は挑戦することがお好きなようですね。その人たちとはすでにつながりがあったのですか?

どなたもつながっていませんでした。私ではなく、ブランド自体を魅力的だと思ってくれているのでしょう。とても驚きましたが、よいデザインは作品のもつ魅力によって多くの人に届くということだと思います。また、私は商品を売り込むために無償で提供することはありません。その点でも一目置かれているのだと思います。

スウェーデンのヴィクトリア王女は、2017年の春に私のStockholm Royal Pinkを着てくれました。これは非常に影響がありました。そのおかげで私は、スウェーデンのハイエンドマーケットに参入することができました。とても嬉しいことです。王女は私のブランドを何度も着てくださっているので、私の名声はどんどん広まりました。

── 非常に競争の激しい環境の中で、次世代のデザイナーたちが成功するためになにかアドバイスはありますか?

私はもともと家具デザインの出身なので、ファッション業界のことはまったく知りませんでしたが、たくさんの素晴らしい人たちに出会いました。次の世代の人たちには、この業界に入るのは難しいということと同時に、最高だということを知っておいてもらいたいです。

なにかを得たいのならば、それ相応の努力する必要があります。私は常に新しい人と知り合い、話をするように努めています。これが最適でスマートなやり方だと思いますが、ひとりでイベントに行くと自分から知り合いを作らざるを得ないので、すこし大変かもしれません。もし友達と一緒に行けるのであれば、その人と一緒に過ごせばとよいので、そちらのが簡単ですね。

Maxjenny Forslund氏

次の世代の人たちにアドバイスを送るのは難しいです。まず、なにか違うことをしなければなりません。オリジナリティを表現するための膨大な選択肢と無限の可能性があるのですから、他の人やプロダクトをコピーする必要は無いはずです。

次に、自分で幅を狭めないこと、なにかひとつに特化しないことです。3つ目は、これが一番難しいのですが、他の分野で自分よりも優れている人と自分を並べて考えることです。4つ目は、スマートであること。目の前の目標に着実に取り組みましょう。5つ目は、効率的に働くこと。四六時中働くことが誰かの心を動かすわけではありません。6つ目は、相手の期待値を越えること。そして最後に、愚か者にならず、いつでも好ましい人であることです。

── ファッションに興味を持ったきっかけはなんでしたか?

私はデザイナー一家で育ち、母は世界的に活動するファッションデザイナーでした。私が10代前半の時、父がメンフィスグループについての本をくれました。この本が、私がF家具・インテリアのデザインに興味を持つきっかけになったと思います。デザインを仕事にしたいという思いは、物心ついた頃からありました。

ファッションデザインに関しては独学で学びましたが、ファッションデザイナーの家族の中で育ったので、自然に身に付いたのかもしれません。製品を作る工場とデザインスタジオが家の近くにあったので、あらゆる工程を知っていました。他の人のために服を作ることもあったので、アイデアが生まれるところから、パリのPremiere Visionで生地を買い、写真を撮影し、顧客の前に展示するなどの、制作工程のあらゆる面を知っていたのです。

ある種の人々が、私のこれまでの人生に多大な影響を与えてくれました。それがメンフィスグループであり、Ettore Sottsass氏であり、Anna Piaggi氏です。私はデザインのことをなにも知らない頃からAnnaのことが大好きで、世界でもっとも素敵な女性だと思っています。

メンフィスグループの家具デザイン(出典:Creative Blog

── 家具をデザインする中で、あなたがファッションデザインに踏み出すきっかけとなったような考え方やアプローチ、テクニックなどはありますか?

細かいディテールと接点がすべてなのだということを学びました。また、自分の役割に集中できるように、それぞれの分野のエキスパートに力を発揮してもらうことが重要だということも学びました。何でもかんでも自分でやろうとすると、うまくいかないし、理想的なプロダクトはできないからです。でも、なかなか一歩を踏み出せないんですよね。

── あなたは「顧客が欲しているものを聞いてから新しい作品を作る」とWebサイトでおっしゃっています。自分の作りたいという欲求を持ちながら、他人の要望をふまえて創作するということは混乱を招きませんか?

まったくないですね。設立当初、ノーベル賞受賞式典に着ていくドレスやスカートを持たないたくさんの新規顧客から制作を頼まれました。そこで私はすばやくその顧客たちのためにスタイルを作ったのですが、これが大成功でした。

最近はニットに合うようなタイトで丈の短いジャケットが求められています。次の夏にはプリーツがありより軽やかなドレスがみられるでしょう。顧客とやり取りしながら一緒に制作できることはすばらしい体験です。

繊維業の作業員は世界に7,400万人いて、そのうち80%は有色人種の女性であり(Labour Behind The Label)、世界でもっとも低い賃金で働いている人たちです(True Cost Movie)。(写真の出典:Our Good Brands

あなたの仕事は持続可能なものですし、セミオーダーであるあなたの商品は誰にでも買えるものではありません。ほとんどのファストファッションは安価で、より手に入りやすい分、影響力が非常に大きいです。一方で衣服に使えるお金が十分でない人はどのように貢献すればよいでしょうか。たとえば、買う数を少なくしたり、サステナビリティを実践しているブランドから買ったり、古着を買ったりすることができるでしょう。そのほかにも私たちができることはあるでしょうか? 作業員が搾取されているような国で作られた服を買うことを避けるべきでしょうか? また、商品のタグを読み、ある種の原料が使われている製品を避けるべきでしょうか?

とてもむずかしい問題で、私にも明快な答えはありません。大規模なチェーン店が、サステナブルで美しいプロダクトを作って信頼されることができるのであれば、彼らはすべてのプロダクトをサステナブルなものにするでしょう。サステナブルなプロダクトは多くの場合、よく売れるからです。

私は、大企業は公共のために働く必要があると思っています。そのような企業こそ、大きな影響を与えることができるのではないでしょうか? 少なくとも、変化を目に見える形で示すことができるのは大企業だと考えています。

── サステナブルでない衣類は一切身につけていないのですか? それとも、多少はお持ちでしょうか?

私は自分で制作した商品と中古のラグジュアリーなアイテムしか使いません。これが完璧な組み合わせなのです。新品のデニムを買うことは絶対にありません。中古の服が1番です!

── スウェーデンのインタビューの中で、「maxjenny!の優良顧客は、コアとなる顧客がマイクロインフルエンサーとして活躍しているネットワークを通して獲得された」とおっしゃっています。グローバルで信頼できる大きなネットワークがあるのでしょうか?

そのようなものはないですね。私は、他の人よりも苦労していると感じています。なぜなら、私は「誰も」知らないし、ファッション界に頼れる大きなネットワークを持っていなかったからです。1度だけ、大きなネットワークを持っている人物と交流し、そのネットワークがどのような影響をもたらすの体験する機会がありました。その人がブランドを紹介してくれれば、あっという間に広がるという体験することができたので、素晴らしいことだと感じました。

自分のネットワークを通じて仕事をすることは好きですが、多くのフォロワーをかかえており、さらに喜んで情報を共有してくれる人を見つけることは簡単ではありません。ですから、常に好奇心を持ってできるだけ多くの人に話しかけ、聞いて回るしかありません。私は好奇心旺盛で人と話をすることが好きなので、いまのところうまくいっています。

シチリア島のカッカモにある小さな教会

── あなたのコレクションのひとつ「Sicily / Royal Stockholm」のプリントは、Caccamoの小さな教会で撮った写真です。どうやってそのような小さく、ほとんど知られていない教会を見つけたのですか? そもそも、プリントの題材はどのように見つけるのでしょうか。生活の中で出会うものに常にアンテナを張って偶然見つけるのですか? それとも、テーマを見つけてから徹底的にリサーチするのですか?

この「Sicily / Royal Stockholm」という作品に関しては、私の友人たちがSicilyの小さな村に家を買ったのがきっかけです。彼らが周辺を案内してくれたときに、たまたまCaccamoにたどり着きました。ですからおっしゃる通り、偶然捕まえたのです。

なにかをしようと考えて行動するわけではなくて、たまたま出会い捕まえるのです。どんなときでもアンテナを張ることで、いたる所に模様を見つけることができます。背中にも目があるようなものですね。

Written by Ella Braimer Jones (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

Written By

Design Matters Tokyo

Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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