スタートアップでデザインすることの醍醐味と3つの学び
本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Designing for Early-Stage Startups: Mapping Experience, Collaboration, and Tackling the Unknown
Ida Ström氏は、CurologyやMercuryなど、ストックホルムとサンフランシスコにある複数のスタートアップ企業で働いた経験を持つプロダクトデザイナーです。彼女の経験からアーリーステージのスタートアップ企業のデザイン、創業者との密接な連携、プロダクト思考のスキルの磨き方などについて、語ってくれました。
・・・
IdaはMercuryのシニアプロダクトデザイナーとして、ワークフローの設計やユーザーの問題に対するソリューションの模索など、多様なテーマの仕事に取り組んでいます。彼女はマーケティングを専攻し、サステナブルファッション、メディア、遠隔医療、フィンテックなどの業界で働いた経験を持っているデザイナーです。その多岐にわたる経歴は、彼女が強い起業家精神と高いモチベーションを持っていることを感じさせます。
── デザイナーを目指したきっかけは?
子どもの頃、アイデアを出すことが大好きでした。「誰でもアイデアを持っている」と、母は仕事の電話で話していました。マーケティング担当役員である母に、20歳の若者がアイデアを持ち込んでくることがおそらく何度かあったのでしょう。母は、「まずはアイデアがないと、話すことはできない」というと、別の電話に取りかかっていました。厳しい愛情ですが、それは私がビジネスダイナミクスに興味を持ち続けるためには適切な教訓でした。
母のアドバイスを胸に刻みアイデアを練りはじめましたが、専門性を持たない私はしばしば圧倒されて疲れてしまいました。そして自分のアイデアを実現させるためには専門スキルが必要だと気がついたのです。そこからデザイナーや起業家の本を読みはじめ、スタートアップの世界に深く潜っていきました。

── スタートアップ企業に参入するまでの経緯を教えてください
サンフランシスコのデザイン専門学校に通ったあと、私は必死で仕事を探していました。先生が創業者のRyanに繋いでくれて、彼がチームで最初のデザイナーとしての役割を与えてくれました。Ryanはまだフルタイムで働いていたので、私たちチームメンバーは彼の本業以外の時間に、Zoomや彼のアパートで一緒に作業をして過ごしました。
異なるスキルを持ちながら、なにか大きなことをしたいという同じ思いを持った仲間がひとつの部屋に集まれば、そのエネルギーは燃え上がります。人生と同じように、スタートアップでの仕事には浮き沈みがありますが、一緒に働くというエネルギーは私が追い求め続けている高揚感です。私は幸運にもいくつかのスタートアップ企業で働くことができたので、その過程で得た学びを共有したいと思います。
── その学びがとても気になります。
創業者と密接に仕事をした経験から話し始めるべきですね。デザインの魔法は、壊れやすく手つかずのものを形にしていく力にあります。小さな会社に入社すると、大きなアイデアを持った創業者と話をすることがあるでしょう。その話の中にはクリスタルのように明確なものもあれば、可能性のかけらでしかないものもあります。アーリーステージのスタートアップ企業のデザイナーとして働くには、創業者たちと密接に関わり、彼らの大きなアイデアを具体的な行動に移していく方法を学ぶことが重要です。

── ほとんどのスタートアップ企業が、2年目を越えられないと聞きます。起業家とそのチームが直面する問題に関してどうお考えですか? そのように変化し続けるシナリオの中で、デザイナーの役割について、なにか共有できることはありますか?
これは私が共有したかったもうひとつの学びに関係しています。それは、未開拓の道をデザインするということです。
個人的に、私はスタートアップのミッションと根っこの部分で繋がることに意味があると思っています。なぜこのように考えるのかというと、スタートアップの方向転換の容易さに関係しています。ビジネスの特定の側面に執着しすぎると、明日には失望してしまうかもしれないからです。
会社を作るのは大変なことです。成功させるには、多くの根性と忍耐が要求されます。失敗もするし、アイデアが却下されたり、なにかがうまくいかなかったために、数週間または数ヶ月かけて作業したものを放棄しなくてはならないこともよくあります。

私たちデザイナーは、自分たちがデザインしたものを愛してくれるユーザーの手に渡ることを夢みています。しかし、スタートアップ企業で働く以上、多くのデザインが私たちの手元に戻ってくること、そしてそれは学びの機会ではあるものの、誤りだと受けいれる必要があります。スタートアップ企業で働くことの喜びは、デザインは「純粋な形で世界を模索する方法」だと発見できることです。完璧に仕上げようという衝動に駆られることなく、デザインをプロセスとして受け入れるとき、私たちはそのありのままの美しさを発見し、結果的に安らぎ、一人ひとりにとっての成功を手に入れることができるのです。
それでは、私が共有したかった3つの学びの最後に移ります。デザインの役割についてです。
特にスタートアップ企業のプロダクトデザイナーであることの美点と難点は、デザインが製品作りのあらゆる側面に関わっていることを理解することです。私は雲の上を飛ぶ鷲のように私たちのビジネスの全体像を見渡すこともあれば、混雑した海を泳ぐ魚のように大きなパズルの小さな断片となることもあります。ある会議では会社のビジョンを話し合い、また別の会議ではフロントエンドエンジニアとデザインコンポーネントの枠線の色を反復修正します。
デザイナーは製品作りの全工程に関わることができる特異な存在です。そしてうまくやるためには、その事実を受け入れる必要があります。しかし、企業の種類や業界によって微妙に違いがあります。Figmaでデザインを磨いてピクセルを動かすことに時間を使いたいと思う人にとっては、スタートアップ企業は向かないかもしれません。しかしながら、もし企業の方針に影響を与えることに喜びを見出し、企業を作ることの全てを理解しているのなら、きっとスタートアップ企業で働くことを楽しめるでしょう。
「デザイナーとしてのあなたの役割は、デザインを作るだけではなく、チーム全体の足並みを揃えるのを手助けすることです。それができたとき、デザインはチーム間の協力と民主主義に深く定着するのです。」
── 2023年にメキシコシティで開催されたデザインカンファレンス「Design Matters」の3つのテーマのうちのひとつが「スーパーヒーローか? いいや、デザイナーだ!(A superhero?, No, a Designer!)」ですから、このトピックはカンファレンスのテーマにぴったりですね。このテーマでは、私たちはデザイナーの役割について会話を広げることと、デザイナーをしばしば過小評価したり、重要な戦略的瞬間にデザイナーが参加することの重要性を忘れることさえあるような地域で、デザイナー自身の価値観を引き出すことが目的としています。あなたは、長年の経験をからデザイナーの役割をどのように定義しますか?
Mercuryのデザイン担当副社長であるJuliana Vislova氏は、「デザイナーの力は、物事を具体化することだ」といいました。デザイナーとしてのあなたの役割はデザインを作ることだけではなく、チーム全体の足並みを揃えるのを手助けすることです。それができたとき、デザインはチーム間の協力と民主主義に深く定着するのです。
「誰でもアイデアを持っている」と母はいいました。しかし彼女は、それを追い求めるほどクレイジーな人はそういないことに言及し忘れていました。もしあなたが、夢を追いかけている人たちと同じ部屋にいると思うのなら、なにが起こるかはわかりませんが、冒険が待っていると私は思います。
・・・
Idaの仕事を知るには、Twitter、LinkedInをチェックするか、彼女のウェブサイトをみてみてください。
Written by Elsie Ralston (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo
カバー写真:Idaとチームメンバーが、ニューヨークのLucky Risographでおこなったリソグラフワークショップの様子(出典:Juliana Vislova氏)



