よりよいデザインをつくるためには「前向きな悲観主義者」であれ

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Being a “Proactive Pessimist” and How It Can Help You Design Better

デザイナーは、自分たちのソリューションが未来をより明るく、よりよくすると考えているので、課題解決に対し楽観的になることに長けています。しかし、循環と再生のためのデザインをするときも、ネガティブな結果を想像することはないのでしょうか? Design Mattersコミュニティの一員であるKaroline K氏は、前向きな悲観主義であることを主張しています。

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IDEOの元デザインディレクターであり、Design Matters 2017のスピーカであるKarolineは、ビジュアルストーリーテリング、再生産的なデザイン、そして循環型経済の専門家です。Karolineはまた、『サーキュラーデザインガイドライン(Circular Design Guide)』を主導したクリエイターの1人です。『サーキュラーデザインガイドライン』とは、デザインに対する新しい考え方を鼓舞し、それを実現するためのもので、イノベーターやクリエイターが循環型経済のために効果的でクリエイティブなソリューションをデザインしやすくするためのものです。

サーキュラーデザインとは、システム全体をとらえ物質の流れを理解し、テクノロジーをつかってデザインプロセス全体にフィードバックの仕組みをつくることです。また、ビジネスモデルをクリエイティブなものにすること、そして最終的にはすべての人のための未来をデザインするという積極的な役割を担っています。

デンマーク出身のデザイナー兼ストラテジストKaroline Kはロンドンを拠点に、Centre for Homelessness Impactのプロダクトチームを立ち上げました。このチームは事実にもとづきなにが有効で、なにが有効でないのかを理解し、制度的ホームレスの撲滅を加速しています。

── 悲観主義についての考えを聞かせてください

デザイナーというのはそもそも楽観的であることを旨とする仕事です。物事はよくなっていくものだと考え、常に可能性を想像するように訓練されているからです。実際に、地球にとってのよりよい未来を創造し、これまでにない豊かさを思い描き、再生産的なシステムをデザインするためには、楽観的に考えることがデザイナーにとって必要なのです。

ですが、楽観主義だけではうまくいかないと私は考えています。批判的な考え方を研ぎ澄ませておくこと、どんなに配慮しても間違った方向に進んでしまうことを想像することも必要なのです。これは、自分の問題解決だけではなく、すでに存在するシステムやコンテクストを考慮することを意味します。その対象は自然のエコシステムかもしれませんし、弾圧を生む構造的なシステムかもしれませんし、多くの廃棄物を生むバリューチェーンかもしれません。

簡単なことではありませんが、私が前向きな悲観主義とよんでいるもので、デザイナーの楽観主義を補強していくことができます。

半分満たされているグラス、あるいは半分空になっているグラス
(出典:Pexels.com)

── 興味深い考え方ですね。どのように実践するものなのでしょうか?

たとえば、自分自身に次のように問いかけることです。
「いまデザインしているものがもたらす、意図しない結果とはどんなものだろうか? ずっとあとになってから、あるいはデザインプロセスの途中でも、人や地球に大きな害を与えることはないだろうか?」

つまり、間違った方向に進む可能性について考えることがうまくなるということです。デザイナーというものは可能性とソリューションについて考えるように教えられている場合がほとんどであると思っています。これは素晴らしいことですし、デザイナーに必要なことです。しかし、プロセスの一部として、考え得るすべてのネガティブなシナリオについて考えることもまた意味があることです。たとえば、実際に起こり得ることの中で最悪の事態はどんなものだろう、と考えてみます。

私たちのデザインプロセスの一部に関わるすべての人に意図せずに大きな害を与えることはないだろうか? ユーザーがデザインしたものを使ったときになにが起こるだろうか? もし間違った使われ方をしたら?

そのための時間と場所を用意して、あえて批判的な目で考えるという工程をデザインプロセスに組みこむことから始めるとよいでしょう。

── あなたはCircular Design Guideに関わっていらっしゃいましたが、サーキュラーデザインに取り組み始めたばかりの人たちになにかアドバイスはありますか?

(出典:the Circular Design Guide)

サーキュラーデザインガイド』を作ったことは、本当に素晴らしい経験でした。当時はIDEOで働いていたのですが、そこで得たデザインや問題解決に関してうまくいったナレッジを集結させ、それをエレン・マッカーサー財団の広大で深い専門知識と組み合わせるという、信じられないような体験でした。

当時、私たちは互いの世界をよく理解していませんでしたが、世界が循環的なものになっていくうえでデザインが果たすべき重要な役割があるという信念を共通認識としてもっていました。私たちはできるだけ課題に取り組むときの壁を低くするために取り組んだので、使用するツールのほとんどは初心者でも使いこなせるようにデザインされていました。

Bill Reed Factory of Environmentally Responsible Design

私がかつて学んだのは、自分1人だけで「完璧な」循環型ソリューションを作り上げることはまず不可能だということです。誰が作っているのか、どこにあるのか、どんな人にどのように届けられるのか、などエコシステムの一部であるすべてのプレーヤーやステークホルダーがつながり、目標を共有することが必要なのです。ある製品がユーザーの手に渡るまでの道のりをたどれば、どれだけ多くの人とそれぞれの小さな意思決定がそこに含まれているかがわかるでしょう。

デザイナーは会議をデザインし、進行するのが得意です。さらに、地球をよりよい方向にするために、人や組織が共通の目標に向かってもう少し手を取り合ったら、どんな未来が待っているのかをわかりやすいイメージを伝えることもできるのです。

── デザインに対する従来の直線的なアプローチは、どのように変化していると思われますか?

デザイナーは、自分のデザインが世の中でどうなっていくのか、そしてその後にどうなっていくのかについて、より敏感になり始めているような気がします。これは、インターネットの影響もあるのかもしれませんし、完全に消えてしまうものはないということなのかもしれません。

私は物理的なプロダクトデザインはあまり手がけませんが、その専門家であれば、プロダクトのライフサイクル、その原材料、使われなくなったあとの扱われ方をもっと気にするのではないかと思います。原材料に関わるイノベーションの中には、素晴らしいものもあって、私たちはまだその可能性の一端しか目にしていないように思います。私は、バクテリアを使って布のパターンを作るNatsai Audrey Chieza氏の作品や、彼女の原料の作成プロセスに生物を取り込む仕事が大好きです。

Natsai Audrey Chieza(撮影:Toby Coulson)
Faber Futures x Ginkgo Bioworks Residencyによるリサーチ(2017)
The Faber Features x Ginkgo ResidencyによるAssemblage 001(2017)
(撮影: IMMATTERS Studio)

プロセスについていえば、「初心者のマインドセット」は常にもっとも役立つという考えが、よい方向に機能しています。プロジェクトの第1歩とは、自身自身の知識不足を補うことではありません。その課題を解決すべく努力してきたすべての人々の実績をふくむ、プロジェクトの歴史的な位置づけに対する理解であるべきなのです。最近のチームはその分野の歴史に詳しい専門家を巻きこむようになりました。よいデザインには、彼らの生きた体験と専門知識が必要不可欠であるととして扱っているようです。循環型デザインにもそのままあてはまるかどうかはわかりませんが、より責任感のあるアプローチのように思えるので期待できると考えています。

── 読んだほうがよいおすすめの本はありますか?

私にとってすっかり価値観が変わるような体験を得た本は、Adrienne Maree氏の『Emergent Strategy』です。この本は、私たちと変化との関係を探求し、世界におけるパターンを見出す方法のようなものを提供しています。彼女は、科学、SF、詩、森林学などを題材にしており、資本主義のように私たちや地球のためにならない現在の構造にとらわれずに、世界のあり方を想像してみることの重要さを気づかせてくれます。また、彼女のパンデミックに関する考察や文章も非常に印象的です。

Adrienne Maree Brown氏(撮影:Anjali Pinto)

サーキュラーデザインの分野で研究をしている人たちは数多くいますし、実際にどんな人たちがいるのかをみるのは、とてもわくわくします。私たちが『サーキュラーデザインガイド』を世に出してすぐのころに立ち上げた、LinkedInのグループには2万8千人以上の人がいます。結果論ではありますが、このグループがあってよかったと思います。

── 悲観主義の話にもどりますが、いまの世界の在り方に対しデザインチームはどのようにプロセスの拡張を考えればよいのでしょうか?

もしあなたがデザインチームのリーダーならば、創作を行う環境についてまずは考えましょう。そこは、人々が意見をぶつけ合い、赤旗を大切にする空間でしょうか? もっとも立場の弱い人たちが安心して発言することができるでしょうか? 誰の声が中心で、誰がその部屋にいないのか? パワーダイナミクスが存在すること、それが心理的安全性に影響を与えることを管理職は忘れがちです。上下関係がないことを誇りに思っているとしても、実際はそのような関係はあるものですから、目を背けることはやめましょう。

デザインプロセスの中に内省の時間を設けることで、「もしも」 の事態や意図しない結果についてのコミュニケーションを引き出すことができます。循環型社会のようなトピックは、チーム内の不安を引き起こすこともあります。チームメンバーの精神状態に気を配り、彼らが休息の時間を必要とすること、プロジェクト以外のどこかからエネルギー源をみつける必要があることをわかっておきましょう。

── 2022年の抱負を聞かせてください。

2020年と2021年はパソコンの画面をみている間にあっという間に過ぎてしまったので、2022年はもっと手に取れるものに時間を使いたいと思っています。とくにDIYと工作に取り組んでみようと思いますが、口だけで終わってしまうかもしれませんので、また話を聞いてください。

新年の様子(出典: Pexels.com)

Written by Adrienne Hayden(Design Matters
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

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Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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