独創的な世界を生み出すクリエイター Inari Sirola氏のインスピレーションの源泉とは
本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:A Glance Into Inari Sirola’s Universe — The Proof Inspiration Can Come From All Around You
Inari Sirola氏は、フィンランド人のアニメーターであり映像製作者です。今記事では、彼女がシュールレアリスムとコメディ、そして一風変わったキャラクターに彩られた世界に私たちを連れて行ってくれました。彼女にインスピレーションを与え続けているものはなんなのか、彼女は世界をどのように見ているのか、ご紹介します。
・・・
Inari Sirola氏とは?
Inari(Instagram アカウント: inarisiro)はロンドンを拠点に活動する、フィンランド出身のアニメーターであり、映像製作者です。彼女は、ジェンダーに関する固定観念に挑戦し、アイデンティティに疑問を投げかけ、社会が作り出している足かせに挑むような作品を生み出しています。シュールレアリスムとコメディの色彩が彼女の自由奔放な世界観の中で融合し、ユニークなキャラクターは身体に対するイメージや美しさの基準に関する個人と社会における現実を浮き彫りにしています。彼女はキャラクターに、不条理と愛情をこめて、やたらと長かったり、垂れ下がっていたり、しわくちゃだったりという特徴のすべてを描きだしています。彼女はしばしば、「誰もがソーセージのようなものだといえるのではないか」という問いを投げかけます。もしかしたら私たちは、自分が認めたくないほど多くの点で共通しているのかもしれません。
ロンドンにある王立美術院の修士課程で学ぶまえ、Inariはロンドン芸術大学のグラフィック&メディアコミュニケーションの学士過程に所属しながら、4年間業界で働いていました。卒業後、雑誌『It’s Nice That』で特集され、「CRAZY」と受賞歴のある「Eating in the Dark」という映像作品が数々のフェスティバルで上映されました。そのなかにはキャラクターデザインの祭典 Pictophasma(ピクトプラズマ)のような格式の高いフェスティバルもふくまれています。どちらの作品も、フランスのディストリビューション会社 Miyu Distributionの制作です。

監督・アニメーション: Inari Sirola




── どんなものからインスピレーションを得ているのですか?
私たちは視覚的な刺激に絶え間なくさらされていて、どこからどこまでがインスピレーションでどこからどこまでがソーシャルメディアのコンテンツなのかわからなくなっています。
私にとってインスピレーションはあらゆるところから生まれてくるものなので、インスピレーションを与えてくれる存在をカテゴリーに分けることにしています。少しだけそのカテゴリーをご紹介します。私がどんなふうに世界をみているのかを感じ、一緒にインスピレーションを巡る旅ができたら嬉しいです。
インスピレーションその1:アニメーション監督
Angela Stempel氏、Sophie Koko Gate氏、Reka Bucsi氏
私はこの3人の監督が心から好きです。彼らが生み出すものすべてが大好きで、共感を覚えます。彼女たちが私と同じ女性であるというのも重要な点です。だからこそ繋がりを感じるのかもしれません。しかし、それが1番重要なわけではありません。AngelaとSophieは私と同じように「醜い」キャラクターを作っていますし、Rekaの作り出す物語は私を夢中にさせてくれます。Angelaの「Urges」、Sophieの「Slug Life」、Rekaの「LOVE」はいつでも思い出せるほど私の心に刻みこまれています。
インスピレーションその2:イラストレーター
Jaenam Yoo氏、Ram Han氏
私のバックグラウンドはイラストであり、もともと風景ではなくキャラクターを描いていましたが、映像作家として仕事をする中で、アニメーションの背景デザインに興味をもちました。アニメーションの場合、背景がキャラクターとマッチしている必要はないのですが、その2つが調和しひとつのものを生き生きと作りあげているところが好きなんです。次回作では、このエアブラシで描いたような現実離れした背景をもっと作りたいですね。
YooやHanの作品は、みるたびに心がザワザワします。本当に興味深くて、そして美しいです。いったいどうすればこんな作品ができあがるのか、想像もつきません。PC画面に食いつくように背中を丸め、ピクセルを目に焼き付け、350%にズームしてその作り方を解き明かそうとしているほどです。これも、インスピレーションを巡る私の旅のひとつです。


(左上: 作品番号6、右上:作品番号12、下:作品番号7)


インスピレーションその3:ファッション
Dom Sebastian、Sunnei、AVAVAV
ファッションはキャラクターデザインそのものです。自分にどうみえるか、どう感じるか、そして他人から自分がどうみえるかを表現するものですから。ファッションはずっと大好きですが、長いあいだ、ファッションに関わる資格はないと思っていました。私が有名ブランドにハマるわけでも、最新のコレクションを知っているわけでもなく、古いものであればあるほど気にいって、買ってしまうような人だからかもしれません。
または、自分自身を過小評価してしまうインポスター症候群が原因の可能性もあります。インポスター症候群になぜなったのか不思議でなりませんでした。しかし、以前ルームシェアしていたときルームメイトが3人ともファッションの勉強をしている人たちだったので、いまはその影響と捉えています。
Dom Sebastian、Sunnei、AVAVAVの3社は、いずれもファンタジックな雰囲気がありますね。でも、大げさなようで、どれももっていたいんです。大げさであろうとなかろうと、素敵な服を着ている人をみると、本当に嬉しくなります。それは、ロンドンに長く住んでいることの大きなメリットだと思います。



インスピレーションその4:旅行とワイン
至極ありふれたものですが、本当にそうなのです。私は旅行や異なる文化やバックグラウンドをもった友達を作るのが好きです。幼稚園のころ、フィリピンとフィンランドのハーフの子と仲がよかったのですが、彼女は家で英語を話していました。彼女の家に行って彼女の家族と過ごすたびに、私は感動していたものです。言葉の意味はわかりませんでしたが、彼女たちが流暢に話しているのが非常に面白かったのです。この経験がずっと残っているからこそ、旅先で、異なる文化の中で異なる言語を使って日常生活をしている人と出会うと、同じような感動を覚えるのだと思います。ワインについては、説明は要らないでしょう。

インスピレーションその5:ポッドキャスト
Nurture vs. Nurture(育成vs育成), Armchair Expert (専門家対専門家), My Favourite Murdrer(私の好きな殺人者)
まだご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、アニメーション作りというのは退屈な作業です。1コマ1コマ作画して、1コマ1コマ色を付けて、1コマ1コマ影を付けるという作業で、近道は無いのです。
もっとも重労働である作画を終え、クリエイティブな部分をすべてやり遂げると、あとはとても単調になるんです。そこで、ポッドキャストやオーディオブックを漁るように聴きます。少し変わっているかもしれませんが、私は目の前の実務に集中しながらも、刺激的な内容のポッドキャストに没頭することができるのです。音楽も好きですが、ちょっと落ち着かないんです。
私は物事を突き詰めて考えるタイプなので、人間の行動や心理に関するエピソードを聴くのはとても興味深いです。これは、フロイト心理学の研究者だった母の影響でしょうね。

中央: Armchair Expert (Expert on Expert)(画像 armchairexpertpod)
右: My Favourite Murdrer (画像: myfavoritemurder.com)
インスピレーションその6:映画とテレビ
Frasier、Oldboy、Midnight Gospel
この3つはいつもまとめて扱われますね。
私は『Frasier』(1993-2004)の大ファンで、すべてのエピソードを数えきれないほどみましたし、いまでもみています。台本、構成、役者の演技が素晴らしいだけではなく、心地よいのです。誰でも感情移入できるような人生の物語でありながら、大きすぎる目標に向かって突き進むようなものではないので、なにか癒しを与えてくれるのです。心温まるようなシットコムであれ、刺激的なスタンダップショーであれ、コメディは偉大なアートの形だと思います。
『Oldboy』(2003、監督:Park Chan-wook氏)は、韓国の傑作映画です。スリラーはあまりみないのですが、この作品を観た最初の感想は、観てよかったというものでした。音楽、照明、カメラワークが細部まで作りこまれ、非常にみごたえがある作品です。それに、脚本が信じられないほどよくできています。台本がなにより重要なので、よくできた台本に出会うことほど嬉しいことはありません。
『Midnight Gospel』(2020、脚本:Pendleton Ward氏、Duncan Trussell氏、Mike L. Mayfield氏)を最初にみたときの感想は、「私が思い描いていたような番組をほかの誰かが作ったなんて信じられない」というものでした。先ほどもいった通り、私は色鮮やかな世界におかしなキャラクターを描きながらも、心理や物事の本質を深く考えるのですが、この番組はまさにそれだったのです。Pendleton、Duncan、Mikeの3人は私にインスピレーションをくれると同時に、いつまでもにがい思いをさせてくれる人たちです。
ほかにも多くの映画やTV番組からインスピレーションを得ていますが、この3つは私の世界観を語る上でよい例だと思います。ジブリ映画やキューブリックの作品ももちろん好きです。多くの人は、アニメーションをひとつのジャンルと考えるのではないかと思います。アニメーションとはジャンルではなくメディアです。ですから、絵が動くこと自体を楽しむのは、非常に筋が通っています。絵だとか映画だとか、メディアの形式に囚われることはありません。そのすべてが本当に素晴らしいのですから。

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo



