北欧のスタートアップStrøm Bikesが追求するサステイナブルな電動自転車とは

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:This Danish E-Bike Startup Is Leading The Transition To A Green Society

エレガントでスマート。そして、自分ひとりで組み立てが可能な新しい電動自転車。
この電動自転車を生産する会社であるStrøm Bikesは、中間業者を取り払った、製造者と消費者との間で直接成立するビジネスモデルを追求しています。

Strøm Bikesはデンマークの首都コペンハーゲンにある革新的な電動自転車の会社で、都心の通勤をもっと環境に優しく便利なものにするという課題に取り組んでいます。彼らは、都心の交通システムをよりグリーンにするためには電動自転車が不可欠なものであると考えています。

交通渋滞や排煙、大規模な汚染は、各国の大都市が解決しようとしている課題です。あらゆる場所で大気汚染が深刻な段階まで進んでいる一方で、多くの都市では通勤に一人ひとりが車を使っています。化石燃料を使用した交通システムは現在、世界中のCO2排出量の24%を占めており、そのうちの72%は陸上の輸送に由来します。また、2050年には都市人口が65億人に達するとの予測もあります。人口が増えても変わらず、ひとり1台ずつ通勤に車を使うのでしょうか。このような状況から、私たちの社会のために、資源をより持続可能な方法で利用することが強く求められるようになってきているのです。

自動化、電動化、そしてライドシェアが交通によるCO2排出量を80%削減できることを気づいたStrømは未来の電気による移動手段を確保する取り組みにいち早く着手しました。

私たちはStrøm BikesのCEOで共同創業者でもあるNichlas Lloyd氏と、プロダクトマネジャーであるHjalte Betak氏に会い、彼らのコンセプトと取り組んでいる課題についての詳しく話を聞きました。

(出典:Strøm Bikes)

── 電動自転車の業界は、この数年間でどのように変わったのでしょうか?

Nichlas:この業界は過去数年間で大きく成長しました。ヨーロッパにおける自転車業者のためのポータルサイトであるBike EUの統計データによると、2027年には通常の自転車よりも電動自転車の方が多くなると予想されています。電動自転車産業は、ヨーロッパでは急成長している勢いのある市場なのです。また、アメリカでもいままさに同じことが起こっています。パンデミックの影響で、公共交通機関の利用を避けて、電動自転車を買う人が増えているのです。パンデミックは家計にも不安をもたらしたので、多くの家庭が移動手段として高価な車ではなく、より安価な電動自転車などを買うようになっています。

── ほかに電動自転車がポピュラーになった理由はありますか

Nichlas:電動自転車を売るためのキーワードがあるのだとしたら、「柔軟性」だと思います。電動自転車は完全な柔軟性を備えた、ひとつの革命的な商品なのです。エクササイズにも使えますし、汗をかかずに通勤するためにも使えます。実際、自転車に乗っているときのアシストの強さは、利用者の好みに合わせて変えることができるのですから。

都心での通勤手段として、電動自転車は完璧です。交通渋滞を起こすことも無く、駐車場所を必死になって探す必要も無い。このような理由で、電動自転車の方が環境に優しく便利な移動手段であるということが、人々に認知されはじめています。大気中のCO2を増やして空気を汚すことも無いので、電動自転車は環境問題に対するひとつの解決策でもあります。

(出典:Strøm Bikes)

── Strøm Bikesの企業理念とはどんなものですか?

Nichlas:Strømが取り組んでいる課題は、電動自転車が都心での通勤手段としてより多くの人に使われるものにすることです。そのために、私たちは人々に「ただの電動式の自転車」だと思われないようにしたいと考えています。この考えはおかしく思われるかもしれませんが、多くの人は電動自転車のことを、年を取ってから乗るものだと思いがちなのです。

あとは見た目のイメージにも問題があります。電動自転車といえば、普通の自転車の後ろに大きなバッテリーが取り付けられた、まるでキャンプにでも行くかのような見た目の自転車を想像する人も多いです。ですから、私たちの課題は、ライトからバッテリーまであらゆる部品が完全に調和した、スマートでシンプルな見た目の電動自転車を作ることです。事業を始めたとき、なんの飾りも無い、いかにも北欧的でミニマルな電動自転車を作りたいと思いました。電動自転車には見えないのに機能は備えているという自転車です。

── Strøm bikeを作ったきっかけはどのようなものですか?

Nichlas:私が愛してやまない、北欧のシンプルなデザインに触発されたことです。私はいつも、どこかにインスピレーションを刺激するものがないかとデンマークにある大きなデザイン会社を見て回っています。北欧の家具、特にArne Jacobsenの製品を見るのが好きで、どうやってあらゆる角に丸みを持たせて滑らかにしているのかを観察しています。B&Oも美しい製品を作っていますね。そしてもうひとつのインスピレーションの源は、空気力学的な形をしていて、尖っているところがひとつもない飛行機です。

デンマーク人として、私自身も自分が北欧のデザインの伝統の一部であり伝統の中で生きています。そのため、この伝統を自分のデザインにも取り入れて表現したいと思っています。気に入った特徴や形、要素を見つける度に、私はそれを自分の製品に取り入れようとします。その結果、製品に統一性が生まれ、空気力学的な丸みを帯びたシルエットとなるのです。

Strøm Bike。Arne Jacobsenのデザインによるガソリンスタンドの前にて
(出典:Visit Copenhagen

──Strøm Bikeの特徴はなんですか?

Nichlas:私たちはワイヤーに至るまで、部品のほとんどを自社で作っています。多くの顧客はそんな小さなことにこだわっていませんが、私たちはそこにこだわっているのです。たとえば、私たちは自社のロゴを入れた特別なスクリューワイヤーをはじめとして、電気系統やフレーム、フォーク、クランク、ライトなど、部品の約70%が自社で設計し生産しているものなのです。ただしギアはShimano、ブレーキはTektro、タイヤはSchwalbeにそれぞれ外注しており、リムやスポークといった部品も外注です。

もうひとつStrøm Bikesのユニークなところは、自転車の重要な部品が、ユーザー自身で組み立てられるように設計されている点です。ユーザーは修理スタッフのスケジュールに振り回されたり、修理費用を払ったりすることなく、自主的に部品を付け替えることができます。ディスプレイやバッテリー、そして小さな部品にわたって、すべての重要な部品は簡単に取り外せるようになっていて、ユーザーはわずか数分で部品を交換することができるのです。たとえば、バッテリーならたったの4秒で取り替えられますし、もっとも複雑な部品でも所要時間は15分です。正しい手順で安全な交換を行うために、説明書と手順書も付けています。

また、オンラインのサービスにも力を入れていて、私たちのWebサイトには修理メンテナンスセンターがあります。

── あなたにとって環境への配慮は、どれほど重要なのでしょうか?

Hjalte:都心の通勤をより環境に優しく便利なものにするということを目標としている新設会社なので、サスティナビリティについて考えることは私たちの会社にとって基盤となる部分です。本当は設計の工程を、最初から最後まで地球環境を考慮したものにしたいと考えていますが、いまの段階では不可能です。ですから、すぐにでも環境に良い影響を与えられるような部分に注目して、私たちが働けば働くほどより地球に優しくなるような手段を作っているわけです。自動車を電動自転車に置き換えていくということもひとつの手段ですね。これは、電動自転車を手頃な価格設定によってより多くの人に使ってもらえるようになることで、私たちの経済的、社会的なサスティナビリティは実現するということを示しています。

いつの日か、「100%環境に配慮している」と言いたいですが、大きな影響力と潤沢な資金源を持つ世界有数のブランドにならない限りそんなことは言えないでしょう。私たちにとって、これは正しい方向に進み続けるための道のりなのです。

私たちが「Direct To You」と名付けているビジネスモデルは、製造者である私たちから顧客へと直接やり取りをする仕組みになっています。これによって古くからある数々の中間業者を介する必要がなくなり、上質な製品をより低価格で、より環境に優しいやり方で提供することができるようになるのです。あらゆる仲介業者を排除することで、私たちは余分なコストを削減し、輸送に伴うCO2排出を抑えることができます。結果的には顧客にも同じメリットがありますね。

デザイン、商品開発、製造、配送から販売まですべての工程を社内で完了することで、在庫も倉庫も最小限に抑えることができます。修理メンテナンスセンターがオンラインであることもまた、不必要な部品のやり繰りを減らすためなのです。

(出典:storoembikes

── デジタルデザイナーがあなた方とStrøm Bikesのプロダクトから学べることはありますか?

Nichlas:私がデザインを始めたときには、ただ自分のためだけにデザインしていました。ですから、デジタルデザイナーも他のデザイナーと同様に、自分が信じることをするべきです。私がそうであったようにね。機会をつかみ、自分から動きましょう。私は3年間ほどアジアに住んでいましたが、それ以前は自分がなにを求めているかひとつもわかっていませんでした。

自分の経験と、ミニマリズムに象徴される北欧デザインという自分に受け継がれた伝統を融合することで、自分自身が面白いと感じるデザインが生み出されることに気がついたのです。

── 次はどんなことをするのですか?

Nichlas:すべてをお話しすることはできませんが、私たちの電動自転車をさまざまな面でよりスマートにしようとしています。IoTにはもちろん関心がありますが、着手するためには、私たちが避けている外部業者との協業がなければとても資金が追いつきません。

Written by Giorgia Lombardo(Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

Written By

Design Matters Tokyo

Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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